最後の校内放送

私は三年二組の担任として、最後の出席を取った。

卒業式の片づけが終わった校舎は、雨の前のように静かだった。廊下には紅白の紙花が残り、黒板の「卒業おめでとう」は、消しかけの粉で霞んでいる。放送室の赤い灯をつけると、校内すべてのスピーカーが目を覚ました。

名簿を開く。

一番から順に呼ぶ。返事はない。それでいい。もう生徒たちは校門を出て、それぞれの家へ帰った。私は空席に向かって、三年間で最後の「はい」を想像する。

十二番の名字で舌が止まった。見慣れない旧字体だった。私は小さく咳をし、下の名前だけを呼んだ。三年間毎朝読んだはずの字なのに、今日に限って形がほどけて見えた。

十四番。

そこだけ、返事を待つ時間を長くした。窓際の席で、いつも遅れて手を挙げる生徒だった。授業中に眠り、注意すると笑い、誰もいない放課後には妙に礼儀正しくなる。私はその机の傷まで覚えている。

最後の名前を呼び終え、名簿を閉じた。

「卒業、おめでとう」

自分の声が廊下の奥から戻ってくる。少し低く、少し疲れて聞こえた。卒業の日の声とは、こういうものなのだろう。三年間ぶんの叱声も笑い声も、今日は薄い膜を一枚かぶっている。

続けて、教室に置き忘れた物は取りに来ること、進路に迷ったら学校へ連絡すること、命だけは粗末にしないことを話した。窓の外で、外し忘れた校旗が風に鳴る。私は一人ずつの机を思い浮かべ、言葉の間を長く取った。

放送を切ろうとして、主電源に手が届かなかった。壁際の椅子を引き寄せ、その上に立つ。高い場所から見る操作盤は、職員室の机よりも複雑に見えた。

そのとき、放送室の扉が激しく叩かれた。

「開けなさい! 中にいるのは誰だ!」

私はもう一度マイクを入れ、担任の声で「私です」と答えた。

廊下の教頭が叫ぶ。

「十四番、先生をどこへやった!」

私は変声器を外した。名簿を開き直し、自分の番号ではなく、担任の名前に欠席の丸をつける。

最後の出席で返事をしなかったのは、裏庭に埋めた先生だけだった。