村税百年分の城壁

辺境村の低い城壁を、徴税官キアノは「未申告資産」と呼んだ。

魔獣除けに村人が積んだ石である。だが石一個ごとに建築税をかければ、百年分の滞納を作れる。払えなければ土地を没収し、鉱山商会へ売る。それが彼の計画だった。

「壁を接収する。邪魔をする者は反逆者だ」

兵が支柱へ火薬を詰める中、畑帰りのセルマードが鍬を肩に立った。

「その向こうに、昼寝中の子供がいる」

「なら起こせ。十数える」

キアノは三までしか数えず、導火線へ火をつけた。

爆発で城壁が割れ、石の塊が内側へ倒れる。村人の悲鳴と土煙が広場を満たした。徴税官は帳簿に「抵抗者一名、事故死」と書き込む。

しかし、羽根筆の先が止まった。

煙の中から、鍬の金具が石を叩く音がしたからだ。

煙が晴れる。

セルマードは同じ姿勢で立っていた。鍬を右肩に載せ、左手を腰へ当てている。背後では、寝ぼけた子供が藁束を抱えて欠伸をしていた。落ちた石は男の輪郭を避けるように砕け、畑の砂利ほどになっている。

村長が足元の石を拾った。それは城壁の外側にあった領主印付きの要石で、入れ替えや幻ではない。キアノの部下も、爆薬の残量が空であることを報告した。徴税官は「演技だ」と言い張ったが、演技なら誰が何のために本物の城壁を砕いたのか、説明できなかった。

「術者を隠しているな」

キアノは村人を見回した。誰も杖を持たない。むしろ全員が、徴税官の背後に据えられた攻城弩を見て青ざめている。

あれは税を取り立てる道具ではない。王軍が巨獣を討つための兵器だ。

「壁への抵抗は王国への抵抗だ。撃て」

鋼鉄の矢が放たれた。二頭の馬ほど太い鏃がセルマードへ迫り、鍬ごと胸を貫く――はずだった。

轟音。灰色の煙。

セルマードは鍬を肩にしたまま立っていた。

鋼矢は彼の胸元で止まり、まるで硬い地面へ落とした陶器のように、先端から細かく割れていく。その亀裂は矢だけで終わらず、弦を逆走して攻城弩へ届いた。

キアノが帳簿を取り落とした瞬間、王軍製の巨大な弩は台座ごと砕けた。