東棟十三〇四号室
高層マンションのエレベーターに、三人が乗り合わせた。
マフィアの取り立て屋、芥子川ニコロ。
張り込み中の刑事、鷺ノ森周防。
留守宅を狙う泥棒、蛇穴珠里。
三人とも十三階のボタンを押した。
「十三〇四号室ですか」
周防がさりげなく聞く。
「まあな」とニコロ。
「私も」と珠里。
それぞれ、自分以外の二人を関係者だと思った。
ニコロは腕を組む。
「話は早い。中の男は逃げる癖がある。出口を塞げ」
周防は、容疑者確保への協力だと受け取った。
「抵抗した場合は私が押さえます」
珠里は、警備員を無力化する打ち合わせだと受け取った。
「私は鍵を開けます。音は出しません」
「手際がいいな」とニコロ。
「前科は?」と周防。
「そういう個人情報、初対面で聞きます?」
「仕事上必要です」
「この仕事、履歴書が要るんだ」
周防は珠里を協力業者、珠里は周防を堅物の首領、ニコロは二人を依頼主側の実働員だと思い込んだ。
「部屋の中に何がある」と周防。
「金庫」と珠里。
「借金の証文」とニコロ。
「盗品の時計」と周防。
三人は黙った。
「同じ金庫に全部入っている可能性はある」と周防がまとめる。
「便利な男だな」とニコロ。
「開けたあとの分配は?」と珠里。
「証拠品は警察が預かる」
「警察?」
珠里の声が裏返る。
周防は警察手帳を出した。
「身元を明かす時機だと思いまして」
ニコロは内ポケットへ手を入れる。
「なるほど。裏切り者を始末しに来たのか」
「誰が誰を裏切ったんです?」
珠里が非常ボタンへ手を伸ばした瞬間、エレベーターが十三階で開いた。
廊下の部屋番号は一三〇一、一三〇二、一三〇三――そして一三〇五。
「十三〇四がない」
壁の案内板を見た管理人が言った。
「ここは西棟です。十三〇四号室は東棟。道路の向こうですよ」
三人は窓から、よく似た別の塔を見た。
周防が扉の閉ボタンを押す。
「では一階へ戻りましょう。お二人には、途中で聞きたいことが増えました」
珠里とニコロは、初めて完全に意見が一致した。
「階段で行く」