永い夜を裾上げする

仕立て屋シェラの店には、日が昇らなくなってから客が来なかった。

夜の魔女が王都の上へ黒い外套を広げ、三十日が過ぎていた。畑は枯れ、暖炉の薪も尽きかけている。

それでも騎士団は、裾直ししかできない娘を城門の内側に置いた。魔女討伐へ向かう英雄たちの外套を夜通し直したのも彼女だったが、凱旋時の褒賞名簿には最初から針子の欄がなかった。

「剣も魔法もないなら、せめて避難民の服を縫え」

成人の日に表示された技能を、シェラ自身も小さな仕事だと思っていた。

【固有スキル《裾上げ》:長すぎる裾を適切な丈へ詰め、引きずらないよう整える】

討伐隊が全滅し、夜の魔女が城壁へ降りた。

空から垂れる外套の裾は、塔を包み、通りを這い、逃げる人々の足へ絡みつく。触れた者から体温が奪われ、子どもが次々と倒れた。

魔女は玉座を要求する。従えば王族だけは闇の中でも生かすと囁き、飢えた民を広場へ跪かせようとした。

「この夜に端はない。朝など二度と来ぬ」

騎士たちは凍った剣を落とした。

シェラは倒れた少女へ自分の上着を掛け、空を見上げる。

端がないはずの闇に、わずかな折り返しが見えた。王都を覆うため、魔女は地平線へ外套の裾を縫いつけている。長すぎるから、夜は世界の裏側まで引きずられているのだ。

「丈が合っていません」

シェラは店で最も大きな裁ち鋏を開いた。

魔女が笑い、闇の帯を鞭のように振るう。彼女はその帯をつかみ、地平線から地平線まで走る裾へ一度だけ刃を入れた。

余分な夜が、巨大な布切れとなって空から落ちる。

切り口を素早く折り返し、黄金の糸で縫い留めた。

詰められた外套は王都を覆うには短すぎた。

東の端から光がこぼれ、朝焼けが一気に闇を押し上げる。凍っていた鐘が鳴り、閉じていた花々まで広場の石畳で開いた。夜の魔女は裸同然になった外套を抱え、最初の陽光に焼かれて消えた。

広場で人々が、三十日ぶりの影を踏む。

シェラの鋏にも朝日が宿った。

【職業《裾直し職人》が上位職《暁裁縫姫》へ書き換わりました】