永遠の夜はあと七呼吸

魔王軍が太陽を消した夜、城壁の兵は武器を捨て始めた。

空には巨大な黒球が浮かび、どれだけ待っても朝が来ない。夜に力を得る魔族だけが増え続ける。

残量鑑定士オフィルは、空の薬瓶を測るしか能がないと馬鹿にされていた。

【残量鑑定:対象に残されている量を、適切な単位で表示する】

隊長は笑った。

「闇が何樽残っているかでも測るか?」

その言葉で、オフィルは顔を上げた。

魔王は「永遠の夜」と宣言した。だが永遠なら、残量という考え方そのものが存在しないはずだ。

彼は黒球ではなく、世界を覆う夜そのものへ意識を伸ばした。視界の端が裂け、頭蓋の奥で鐘が鳴る。空ほど大きな対象を測った反動だった。

表示された単位は、時間ではなかった。

残り――七呼吸。

「盾を上げろ! あと七回、息をしろ!」

隊長は逃げようとした。オフィルはその背を蹴り、盾列へ押し戻す。

魔族の槍が降る。

一呼吸。盾が割れる。

二呼吸。城門が軋む。

三、四。仲間が膝をつく。

五。黒球がひび割れる。

六。魔王が初めて空を見上げた。

七。

東の地平から、細い金の線が走った。

朝日が黒球を内側から貫く。永遠を装っていた魔法は、夜を七呼吸ぶん引き延ばしただけだった。光を浴びた魔族は煙を上げ、城壁の外へ雪崩のように逃げていく。

兵たちは武器を拾い直した。先ほどまでオフィルを笑っていた隊長は、割れた盾の陰で震えている。

「なぜ分かった」

「量があるものは、いつか尽きます」

朝日に照らされると、魔王軍が夜の間だけ巨大に見せていた幻影も剥がれた。十万と恐れられた軍勢は、実際には千にも満たない。兵たちは笑いながら城門を開き、逃げる魔族を追い払った。隊長が隠していた降伏文書は朝露で滲み、署名欄だけが読めなくなる。オフィルを信じた七呼吸が、王都の百年を買い戻した。

夜明けを見た子供たちは、七まで数える歌を城壁で歌い始めた。その歌は後に、絶望を永遠と思い込まないための王都の合図になった。

本物の朝が王都を照らし、その光が彼の職業名まで塗り替えた。

【職業:残量鑑定士 → 時量鑑定士】