沈黙が答えた人質

「黙った意味が一度だけ分かる? 口を閉じている者から何を聞く」

外交院の試験で、シヴィカは無能と判定された。

【能力:《沈黙訳》――問いを向けられ、意図して答えなかった一人の沈黙を、一日に一度だけ一文として理解する】

嘘を見抜く力ではなく、返事を強制もできない。彼女は会談室の茶係へ回された。

国境都市で、隣国の王子が人質に取られた。

犯人は都市守備隊長を名乗り、「城門を開ければ王子を返す」と要求した。人質交換の席で、王子は猿轡を外されても何も話さない。敵に脅されているのか、共謀しているのか、誰にも分からなかった。

戦姫ハルディナは城門を開くふりをし、弓兵へ狙撃を命じようとした。

シヴィカは茶を置きながら、王子へ一つだけ尋ねた。

「殿下、目の前の男は本当に守備隊長ですか」

王子は答えなかった。

犯人が剣を喉へ押し当てたからではない。王子は一瞬だけ犯人の左手を見て、それから床へ目を落とした。

シヴィカは《沈黙訳》を使う。

――その質問へ答えると、本物の守備隊長が死ぬ。

犯人は偽者だった。だが本物をどこかで拘束し、王子の言葉へ反応する呪具を仕掛けている。

シヴィカは質問を変えた。

「では、殿下。お茶は熱いですか」

王子は小さく頷いた。

彼女は熱い茶を犯人の左手へこぼす。手袋の下から、二本の糸が現れた。一本は王子の首輪へ、もう一本は床下へ続いている。

ハルディナが糸を同時に切る。

床下の隠し部屋から、本物の守備隊長と起爆呪具が見つかった。犯人は変身した敵国の密偵だった。王子が正体を口にすれば、連動して守備隊長を殺す仕掛けだったのである。

人質も守備隊長も救出され、王子はようやく自分の声で礼を言った。夜明けの反撃で城門は閉じたまま敵軍を退けた。

試験官が「沈黙は何も言っていない」と主張する。

ハルディナは剣の鞘で、男の口を軽く押さえた。

「なら今のおまえの沈黙も、処分へ同意した意味でよいな」

戦姫は外交印をシヴィカへ渡した。

「次の会談では、最も話さない者の隣へ座れ」