泡立つ冬キャベツ
砦の地下には、凍傷より先に腐り始めたキャベツが積まれていた。
遠征軍の司令ヴォルグは、鼻を押さえて吐き捨てる。
「一万玉も買わせておいて、春まで持たぬとは。倉庫番は全員減俸だ」
雪で街道は閉ざされ、次の補給は二月後。肉と麦はあるが、生の野菜はこれだけだった。前年は冬半ばから兵の歯茎が腫れ、傷が塞がらず、戦わずして三十人が倒れている。
倉庫番たちは処罰より、その再来に怯えた。
兵站係に雇われた久我航平は、まだ硬い玉だけを選んだ。
外葉を剥き、芯まで細く刻む。重さを量り、その二パーセントの塩を混ぜる。手袋越しに揉むと、乾いていた葉から透明な水が滲んだ。樽へ拳で押し込み、空気を追い出し、上から石を置いた。
「水も酢も入れんのか」
「キャベツ自身の水で沈めます」
三日目、樽の縁に細かな泡が並んだ。
腐ったと騒ぐ古参兵が樽を捨てようとしたが、航平は液面の下に葉が沈んでいるのを確かめ、蓋を戻した。
「臭いが腐敗に変わったら、俺を牢へ入れてください」
司令は七日だけ待つと告げ、牢番を樽の横へ置いた。
七日目。司令の前で樽を開くと、地下の黴臭さを押し退けて、青い野菜と爽やかな酸味の香りが立った。
白かった葉は淡い金色になり、噛めばぱりりと音がする。
ヴォルグは眉を寄せたまま一口食べ、すぐ肉の脂身をもう一切れ口へ運んだ。酸味が脂を流し、塩だけの保存肉が別物になる。
「兵一人の一食分は?」
航平が皿と秤を出す。生のまま積んでいた時より嵩は半分、廃棄はゼロ、必要な塩は従来の四分の一。樽一つで百人に三日分。
衛生兵は葉の硬さと匂いを確認し、前年の塩茹でより食べやすいと認めた。兵たちは肉の皿より先に、酸っぱい葉を追加で求める。
数字を聞いた会計官の羽根ペンが止まった。
外では腐敗した葉を捨てる穴が掘られていたが、命令は逆転した。
まだ無事な九千二百玉が、刻み台へ運ばれていく。
ヴォルグは航平に兵站章を渡し、全砦へ回す書状を口述した。
「冬野菜は今後、彼の樽で保存する。まず百樽、今日中に仕込め」