泥の騎士が立つ場所

川沿いの村へ売られてきた人造騎士は、焼いた粘土でできていた。

胸板には《土塊兵D―4》、背中には領主の所有紋。命令を受けるたび、泥の体へ赤い亀裂が増える。使い潰す前提の攻城兵だった。

村書記オーレンは、領主から一枚の粘土板を渡された。

「税の不足分だ。こいつを堤防工事に使え」

板にはD―4を動かす命令式が刻まれている。最下段の空欄へオーレンの指紋を押せば、所有者が変わる。

その夜、上流で豪雨が降った。堤防には裂け目が走り、水が噴き出す。

村人たちは叫んだ。

「早く人形に塞がせろ!」

D―4なら自分の体を崩して穴へ詰められる。粘土板にも《緊急時、素体を資材化せよ》とある。

オーレンは板を持って堤防へ立った。

D―4が無言で膝をつく。

「所有登録後、資材化命令を受理します」

「登録しない」

「村が水没します」

「だからって、お前を土嚢にしていい理由にはならない」

オーレンは板を石へ叩きつけた。一度では割れない。二度目で端が欠け、D―4の背中の紋が明滅した。

「契約破壊は、素体の行動保証を失わせます」

「保証じゃない。強制だ」

三度目。粘土板が二つに割れた。

背中の所有紋が乾いた泥のように剥がれ落ちる。D―4は立ち上がったが、もう誰の命令も待たなかった。

「逃げろ」

オーレンが村人へ叫ぶ。

その言葉も、D―4には届かない。

人造騎士は堤防を見、川を見、自分の両手を見た。そして勝手に水際へ歩いた。

「命令ではないな」

「違う!」

「ならば、私の判断だ」

彼は体を崩さず、巨石を一つずつ運び始めた。村人も続き、夜明け前には裂け目が塞がった。

作業後、D―4は川下へ去った。自由を確かめに行くのだと、誰も追わなかった。

昼過ぎ、オーレンが割れた板を埋めていると、乾いた足音が戻ってきた。

「番号では呼びにくい」

人造騎士は新しい粘土を胸へ塗り、指で一文字ずつ刻んだ。

《ガド》

「壁という意味だ。だが、どこに立つかは私が決める」

そう言ってガドは、命令板ではなく村の鍬を自分から手に取った。