消える共有アルバム

二十時五十分。諸星壮馬は、共有アルバムの契約終了画面を開いていた。札幌の水城鈴音と、毎日一枚ずつ写真を上げた五年間。東京の夕焼けと札幌の雪、コンビニ弁当と手作りのスープ。同じ場所で撮った写真は、数えるほどしかない。

保存期限は二十一時。更新料を半分ずつ払う約束だったが、鈴音は〈もう更新しなくていい〉と送ってきた。

壮馬は机の上の使い捨てカメラを転がした。二人で最後に旅行した函館で、鈴音が「残り一枚は一緒に暮らす日に」と残したものだ。巻き上げレバーは、あと一度だけ動く。カメラの紙箱には、鈴音が描いた二人用の表札が貼られ、住所の部分だけ空欄になっていた。

「本当に消すよ」

通話の向こうで鈴音は黙った。空港のようなアナウンスが聞こえる。

「うん。クラウドには、残さなくていい」

「写真だけじゃなくて、俺たちも?」

「どうしてそうなるの」

「来月も会えないって言った。更新もしない。十分だろ」

鈴音が何か答えたが、場内放送に重なった。壮馬は通話を切り、アルバムの〈削除予約〉を押した。

二十時五十七分。玄関のチャイムが鳴る。時間指定の宅配便だった。鈴音からの箱には、五年分の写真を印刷した分厚いアルバムと、東京行きの片道航空券が入っている。最後のページだけ空白で、付箋にこうあった。

〈クラウドじゃなく、同じ家に残したい。来月から東京勤務〉

壮馬が電話をかけると、鈴音は保安検査場の向こうで泣いていた。

「今から行く。着くの、十一時過ぎだけど」

「さっき、俺たちも消すのかって聞いた」

「だから違うって――」

「聞こえなかった」

二十一時。画面からアルバムが消えた。同時に鈴音の声が遠くなる。

「採用、昨日まで待った。でも壮馬がもう終わりだと思ってるなら、札幌に残る」

搭乗を促す放送。鈴音は、東京行きの航空券を変更すると言った。

壮馬は削除済みフォルダを開く。三十日間は復元できる。指を置いたまま、空白の最後のページを見た。そこへ写るはずだった二人は、どちらも先に相手の答えを決めてしまった。

彼は復元を押さず、使い捨てカメラの最後の一枚を、誰もいない部屋へ向けて撮った。