涙を納める鎧
トルエンの鎧は、勝つたびに泣いた。
黒騎士の剣を折った瞬間も、兜の目孔から一滴の水が流れた。水は頬を伝わらず、胸甲の継ぎ目へ吸い込まれる。ひび割れていた鋼が音を立てて塞がった。
処刑台の縄が切られ、ラーデが落ちてくる。トルエンは彼女を抱き止めた。
「遅い」
「勝った」
「知ってる。あなたの鎧が泣いたから」
この鎧は、持ち主が得るはずだった未来の涙を代価に、勝利のたび傷を修復する。一勝目で、幼い弟の葬儀に流すはずの涙が消えた。二勝目で故郷を失う涙が。三勝目で仲間との別れが。泣くべき時は来たが、目は乾いたままだった。
十九度勝った今、鎧の内側には十九粒の涙型の鋲がある。鎧は勝つほど滑らかになったが、彼の声からは慰め方が一つずつ消えていた。
ラーデの腹から血が広がっていた。縄を切る前、黒騎士の短剣が届いていたのだ。
「外せ」と彼女が言った。「その鎧、外して顔を見せて」
トルエンは留め具へ手をやった。だが最後の一撃で胸甲は完全に閉じ、継ぎ目さえ消えている。勝利を認めた鎧は、代価を納めるまで持ち主を放さない。
「次に泣くはずの涙は何だ」
ラーデは問いながら笑った。
彼には分かっていた。彼女を失う涙だ。
「まだ死ぬな。治療師を呼ぶ」
「呼んでも間に合わない」
彼女の指が兜に触れた。鋼越しなのに、その温度だけは分かった。
「泣けなくても、悲しんで」
呼吸が止まった。
トルエンは名を呼んだ。何度も呼んだ。胸は痛むはずだった。喉は裂けるはずだった。だが鎧の内側で、最後の涙が小さく落ちる音がしただけだった。
胸甲に二十個目の鋲が浮かぶ。
その瞬間、痛みまで消えた。
兵たちは処刑台を制圧し、彼を英雄と呼んだ。トルエンは腕の中の女を見下ろした。守るべき人物だったことは覚えている。死んだ事実も理解できる。けれど、なぜ地面へ置かず抱いているのか説明できない。
「この遺体は、誰のものだ」
誰も答えなかった。
兜の内側で目を閉じる。二十の勝利を収めた鎧だけが、彼の代わりにいつまでも泣き続けていた。