満腹になった暴食王
《料理配信者の真白モモと無名の屋台主?》
《暴食王に飯を渡したら巨大化するだけ》
《討伐配信でグルメ企画やるな》
地下厨房の中央で、暴食王は七つの口を開いていた。人気料理配信者・真白モモが投げた炎包丁も、香辛料の煙幕も、すべて噛み砕かれる。食べるたびに胴体が膨らみ、天井の鍾乳石へ届きそうになった。
屋台主の榊廉次は、小さな木箱を抱えたまま動かない。モモが配信前に味見を求めても、彼は『これは食べる相手が決まっています』と蓋を開けなかった。画面越しには地味だった握り飯から、今は炊きたての米と焦げた塩の香りがかすかに漂う。七つの鼻孔が、同時にその匂いを追った。
「廉次さん、あれ、本当に一個で足ります?」
「一個しか作ってきませんでしたから」
箱の中には、塩を振っただけの丸い握り飯がある。
《暴食王の胃袋は七つ、満腹値は共有しない》
《高級食材ほど強化率が上がる。白米でも餌だぞ》
《モモが時間稼いでるうちに逃げろ》
モモが巨大な舌を包丁で縫い止める。開いた中央の口へ、廉次は握り飯を一度だけ放った。
暴食王の七つの喉が同時に鳴る。
膨れ上がっていた腹が、急速にしぼんだ。七つの口は満ち足りたように閉じ、王は幼い豚ほどの大きさになって床へ丸まる。頭上の危険表示も赤から緑へ変わった。
「何を入れたの? 封印薬?」
「今日、初めて炊いた米です。僕の職能は《最初の一口》。食べた者が本当に欲しかった味を、一度だけ思い出させます」
暴食王の小さな鼻から、安らかな寝息が漏れた。
《精神波形、空腹信号が七系統すべて停止》
《こいつ腹が減ってたんじゃなく、母親の餌を探して千年食ってたのか》
《モモが中央の口を開け、廉次が一口で終わらせた。料理人同士の完全連携》
モモは包丁を鞘へ戻し、残った木箱を覗いた。
「次は配信じゃなく、私が客として屋台に行く。最初の一口、予約させて」
画面右上の数字が桁を増やした。
【同時視聴者数 777,777――暴食王の全口閉鎖と同時に到達】