火曜だけ忙しい無職

 鳥越田啓吾と南条寺望は、火曜日だけ予定が詰まっている。

 二人とも現在は働いていない。啓吾は貯金を取り崩し、望は祖母から受け継いだ小さな駐車場の収入で暮らしている。

 火曜はスーパーの特売、コインランドリーの乾燥機半額、町の銭湯のポイント二倍が重なる日だった。

 午前十時、啓吾の部屋へ望が来た。

「出発は十時十五分」

「もう十五分」

「なら定刻」

 二人は空の買い物袋と、洗濯物の大袋を持って外へ出た。

 最初はスーパー。

 卵、豆腐、キャベツ、特売の鶏胸肉。望は割引のプリンを籠へ入れ、啓吾に戻された。

「予算外」

「火曜を乗り切る燃料」

「働いてないのに何を乗り切る」

「火曜」

 次はコインランドリー。

 乾燥機が回る三十分、二人は椅子へ並び、自動販売機の珈琲を飲んだ。

「最近、何か始めようと思う?」

 啓吾が訊く。

「思うだけなら毎週」

「何を?」

「朝の散歩」

「開始時刻は」

「午後一時」

「朝ではない」

 回転する洗濯物を見ているうち、話は靴下の寿命へ移った。

 乾いた袋を抱え、銭湯へ行く。

 平日の昼風呂は空いていた。二人は湯船の端へ座り、肩まで沈む。

「今日、忙しいな」

「三件回った」

「会社員より移動してる」

「比較対象が雑」

 窓から冬の光が入り、湯気を白く照らした。

 風呂上がり、望は牛乳を、啓吾は珈琲牛乳を選んだ。

 ポイントカードへ二つ判が押される。

「あと四回で入浴無料」

「一か月後」

「火曜は未来が見える」

 望は満足そうだった。

 帰りに総菜屋へ寄ると、閉店前ではないのにコロッケが揚げたてだった。

 予定になかったが、一つずつ買った。

 公園のベンチへ座り、紙袋を開く。衣はさくさくし、じゃが芋の甘い湯気が出た。

 洗いたての服から柔軟剤の匂い、髪から石鹸の香りがする。

「プリンを戻した意味、あった?」

 望が訊く。

「コロッケは予備費」

「便利な予算だな」

 夕方、二人は啓吾の部屋へ戻り、乾いた洗濯物を半分ずつ畳んだ。

 火曜日の業務はこれで終了。

 明日の予定は何もない。

 それを確認すると、二人は急に安心し、特売の茶葉で番茶を淹れた。

 湯気の向こうで、火曜だけの忙しい暮らしが、揚げ油と石鹸の匂いを残してゆっくりほどけた。