猫のいない日曜日

「この子がいなくなったら、日曜が暇になるね」

保護猫の譲渡日が決まった朝、若松千紗はケージの前でそう言った。

白黒の猫を拾ったのは芦名諒平だった。しかし彼の部屋はペット不可で、千紗の部屋で預かることになった。それから三か月、諒平は毎週日曜に餌と猫砂を抱えてやって来た。

爪を切り、写真を撮り、里親候補と面談する。帰り際には猫が玄関まで追ってくるから、諒平はいつも「来週も来るよ」と言った。その言葉が誰に向けられているのか、千紗は尋ねなかった。

二人は猫が来る前から友達だった。それでも毎週会う理由ができてから、関係は少しずつ生活に近づいた。冷蔵庫には諒平の好きな炭酸水が入り、彼は千紗の部屋の電球の型番まで覚えた。

譲渡の日、里親の家へ猫を届けた。新しい首輪をつけてもらい、窓辺に置かれたベッドへすぐ丸くなる。幸せそうな姿を見て、千紗は笑った。

帰りの電車では、二人とも空のキャリーを見ていた。

「来週から、本当に暇だね」

諒平は返事をせず、駅に着くとキャリーを千紗の手から取った。改札を出たところで、スマホを見せる。

次の日曜、二名で予約された陶芸教室。

その次は水族館。

さらに次は、千紗が話していた古い喫茶店。

「猫、いないよ」

「知ってる」

「餌も猫砂も買わなくていいよ」

「それも知ってる」

諒平は空いた手を差し出した。千紗が指先を乗せると、彼はキャリーを持つ手より強く握った。

「理由がなくても、来ていい?」

千紗は予定を三件とも承諾し、最初の件名《暇つぶし》を削除した。《千紗と諒平の日曜》と入力する。名字を外した画面を見て、諒平の耳が少し赤くなった。

駅前で別れるはずが、彼は千紗の部屋までついてきた。猫のいない玄関は広く、二人分の靴が妙に近い。

「来週も来るよ」

いつもの言葉に、千紗はつないだ手を持ち上げる。

「この子はいないけど」

「だから、千紗に言ってる」

猫がいなくなれば日曜は暇になるはずだった。

けれど空いた時間は、その日からようやく、二人だけのものになった。