王を持つ四本の指
鬼頭果歩は、交換で受け取った王のカードを名越環奈へ差し出し、その端をつかませた。
「離さないで。私も離さない」
二人の指が、同じ一枚の左右を挟む。金箔の王冠が、四本の指の間でかすかに震えた。楯岡兵馬は自分の騎士を握ったまま、嘲るように息を吐いた。
「王を渡したら、お前は負けだ」
壁の規則は簡潔だった。
〈全員が一度カードを交換した後、終了ベル時に王を持つ者を解放する〉
開始時、果歩は騎士、環奈は王、兵馬は道化。兵馬は果歩へ道化を押しつけ、果歩は環奈から王を受け取った。環奈の手元には騎士が残る。交換は全員完了している。
主催者が期待したのは、王を得た果歩と、奪い返したい環奈の争いだった。
だが果歩は王を独占せず、環奈にも持たせた。
『王の所有者は鬼頭果歩です』
「規則は所有者と言っていない。持つ者」
『一枚のカードに勝者は一名です』
「一枚だから一人とは書いてない」
兵馬が立ち上がり、王へ手を伸ばす。環奈は反射的にカードを引き、果歩も反対側へ力を込めた。破れれば王でなくなる。二人は目を合わせ、同時に手を下げて卓の裏へ隠した。
残り一分。兵馬は二人の腕を引き離そうとするが、首輪の鎖が座席から一メートル以上の移動を許さない。果歩と環奈は隣席だった。主催者が配置した近さが、共同保持を可能にした。
「どうして私まで」と環奈が小声で尋ねる。
「王を交換してくれたから」
「取られただけよ」
「それでも、あなたが持っていた一枚で私は助かる。なら半分はあなたの勝ち」
終了ベル。天井カメラが王と四本の指を認識する。
〈王を保持する者、鬼頭果歩、名越環奈〉
二つの首輪が緑に変わった。
『単独勝者を選びなさい』
果歩は王を持ったまま立つ。
「勝利条件はもう満たした。選び直しは別のゲーム」
二人分の出口が開く。兵馬の前には騎士だけが残った。
果歩は環奈と歩調を合わせた。
「主催者は、持つことを奪うことだと思わせたかった。でも一枚は、二人でも持てる」
王のカードは最後まで、どちらの手からも離れなかった。