王女の血から毒だけを

フェリクは宮廷薬師試験に落ち、地下倉庫の瓶洗いへ回された。

調合の才能は平凡。唯一の収納も、混ざった物を分けてしまうだけだった。

【固有スキル《分離収納》:接触した混合物から、指定した一成分を別枠へ格納する】

濁った葡萄酒から澱を抜ける。泥水から砂を取れる。だが宮廷薬師長は「高価な濾紙の真似」と笑い、フェリクの研究記録まで自分の名で提出した。

地下では、誰も治療してくれない下働きたちが彼を頼った。膿んだ傷から異物を抜き、腐った薬酒から黴だけを除く。正式な薬師ではないため礼金は受け取らず、代わりに症状と結果を細かく記した。その記録も薬師長に奪われたが、フェリクの頭には残っていた。

戴冠式の日、第一王女アリシアが杯を口にして倒れた。

唇は紫、脈は急速に弱まり、解毒薬は効かない。薬師長は毒の種類を特定できず、瓶洗いのフェリクへ責任を押しつけた。

「こいつが杯を洗った。捕らえろ!」

薬師長の弟子たちは、彼が調合した解毒薬を次々と流し込んだ。王女の呼吸はむしろ浅くなる。衛兵がフェリクの腕を掴む。

フェリクは床に落ちた一滴を見た。毒を知らなければ薬は選べない。だが収納に必要なのは名前ではなく、混合物の中から何を分けたいかという意思だけだ。

王女の身体は、血と肉と無数の成分が混ざった一つの生命。

そこへ後から加えられた、彼女ではない成分がある。

「殿下に触れさせてください。一度で終わります」

嘲笑の中、王妃だけが頷いた。

フェリクは王女の手首へ指を添え、「命を奪う異物」を指定して分離収納を発動した。

黒紫の液体が一滴、空き枠へ現れた。

王女の唇に赤みが戻り、止まりかけた胸が大きく上下する。同時に、薬師長の袖から落ちた小瓶が同じ色に光った。成分照合の魔法陣が完全一致を示す。

衛兵の手がフェリクから離れ、薬師長の両肩へ移った。

王女が目を開けた瞬間、地下倉庫用だった彼の身分板に王家の紋章が刻まれる。

【職業が《瓶洗い》から《万毒分蔵師》へ書き換わりました】