王子の沈黙を診断する
治療院の通訳オルフェルは、獣医以下と呼ばれていた。
彼にできるのは、言葉を話せない患者の反応を文章にすること。宮廷医たちは「痛いか苦しいかなど、顔を見れば分かる」と笑った。
【固有スキル《生命翻訳》:生命が外部へ示す反応を、使用者が理解できる言葉へ置き換える】
凱旋式の朝、第二王子が突然倒れた。唇は動かず、手足は石のように固まり、呼吸が一息ずつ弱くなる。
宮廷医長は毒と断定し、強い解毒薬を注ごうとした。オルフェルは王子の指が、胸ではなく右手の指輪を掻いているのを見た。
「待ってください。身体に訊きます」
「患者は喋れん。だからお前の出番ではない」
医長が薬瓶を傾ける。オルフェルは王子の手首をつかみ、全身の反応へ翻訳をかけた。
脈は《逃げろ》ではなく《従っている》。
肺は《毒で動けない》ではなく《命令により停止中》。
神経は一本残らず、同じ言葉を繰り返していた。
――王印を持つ者の命令に服せ。
毒ではない。指輪に仕込まれた服従術が、王子自身の身体へ「止まれ」と命じている。
オルフェルは指輪を抜こうとしたが、宮廷医長が腕をつかんだ。
「王家の証へ触れるな!」
その手にも、同じ工房の小さな制御環が光っていた。
オルフェルは王子の硬直した指を、制御環へ向けた。生命翻訳で唯一動く瞳の意思を言葉にする。
「その男を拘束せよ」
王印が命令を受理し、衛兵の鎧が一斉に医長へ向く。制御環が砕け、王子は大きく息を吸った。注がれる寸前だった解毒薬は、服従術を固定する薬だったと鑑定器が示す。
第二王子はまだ声が戻らず、震える指でオルフェルの掌へ文字を書いた。
――私が最初ではない。
治療院の奥には、同じ医長から「回復不能」とされた無言の患者が十二人いる。オルフェルが順に反応を訳すと、全員の神経から同じ服従命令が見つかった。薬代を横領するため、治らない患者を作っていたのだ。
王子は衛兵へ指輪工房の封鎖を命じ、十二人の寝台を大広間へ運ばせた。今度は誰も、彼らが何も訴えていないとは言えない。
医長が連行される脇で、オルフェルの白衣に新しい紋章が浮かんだ。
【職業《無言患者通訳》が上位職《生命言語医》へ書き換わりました】