王宮の臭いを封じた一杯の水

王宮西翼には、誰も近づかない豪華な便所があった。金の便座、白大理石の床、香料を焚く銀皿。それでも扉を開ければ、地下の汚水路から腐った卵のような臭いが吹き上がる。

宮廷魔術師は悪霊だと言い、浄化陣に金貨千枚を使った。効いたのは香が燃えている間だけだった。

配管工見習いのペリナは、鼻をつまんだ宰相に尋ねた。

「この排水管、途中で曲げても構いませんか」

「壊したら地下牢だ」

彼女は床下の直管を外し、短い管をU字に曲げてつないだ。そこへ水を一杯流す。曲がりの底に、水が少し残った。

前世のアパートで毎日見ていた、水封式の罠だった。

魔術師が嘲った。

「水一杯で悪霊を止めると?」

ペリナは地下側から青い煙を送り込ませた。直管につながる隣の穴からは、青煙が勢いよく噴き出す。U字管につないだ便器からは、一筋も出ない。残った水が、空気の通り道だけを塞いでいた。

銀皿の香を消す。

十秒。三十秒。十分。

王妃が自ら扉を開け、深く息を吸った。漂うのは磨いた石と石鹸の香りだけだった。

材料費は銅管三本と接合材、作業は二十五分。魔術師の浄化陣の四百分の一だった。宰相は帳簿を見て、無言で顔を赤くした。

王妃付きの侍女たちは、臭いを隠すため一日に香木を七本焚いていた。頭痛で倒れる者もおり、西翼の客室は半年空室。ペリナが管を替えたあと、侍女長は香炉を廊下へ運び出し、窓を初めて閉めた。

魔術師は青煙が弱いと難癖をつけ、地下の送風器を最大にした。隣の直管からは煙が噴水のように上がり、白壁を青く染めた。それでも水を残した曲がり管は、表面がわずかに揺れるだけで一筋も通さない。王妃は便器の脇に白い花を置き、十分後も花弁に地下臭が移っていないことを確かめた。香料費だけで、改修費は三日で回収できた。

西翼を避けていた外国使節も、その日の夕食後から客室を使うと申し出た。

王妃は王宮の見取り図をペリナへ差し出した。

「便所は四十八、浴室は十二。すべて今日の曲がり管に替えなさい。あなたを王室衛生設計官として採用します」