王都の詰まりを抜く者
下水保守員ネグァンは、王都で最も低い場所にいた。
地上では宮廷魔術師が空へ塔を伸ばし、地下では彼が膝まで汚水につかって排水口をさらう。祝祭の日でさえ、誰も彼の名を呼ばなかった。
先月、ネグァンは霊脈管から逆流音がすると報告した。宮廷は「下水の臭いを魔力と勘違いした」と書類を返した。技能も、配管工向けの一文だけだ。
【排水路清掃:流れを妨げる詰まりを除去し、本来の流路を回復する。】
魔族軍が王都を包囲した夜、七重結界が一斉に消えた。
魔術師たちは魔力炉へ駆け込んだが、炉は正常だった。宝石も術式も壊れていない。それなのに、王都を巡る魔力が一滴も流れない。
城壁の向こうで攻城獣が角を下げる。結界なしでは門が一撃で砕ける。
ネグァンは地下水路の奥で、いつもと違う音を聞いていた。水は流れている。だが、その下を走る青い光だけが、巨大な何かにつかえて脈打っていた。
彼は鉄棒で石床を叩き、隠された霊脈管を開く。
中には、敵が撃ち込んだ黒晶の杭が詰まっていた。術式を壊す杭ではない。流れをせき止め、王都自身の魔力を内側で腐らせる栓だった。
追いついた宮廷魔術師が顔をしかめる。
「触れるな。高位呪具だ」
「詰まりなら、僕の担当です」
ネグァンは腰の吸引器を杭へ押し当てた。技能が管路全体へ広がる。黒晶に絡んだ呪いも、滞留した魔力の澱も、すべて“流れを妨げるもの”として引き剥がされた。
杭は轟音とともに抜け、吸引器の槽へ収まる。溜め込まれていた魔力が津波のように迫るが、ネグァンは逃げず、分岐弁を順番に開いた。流すだけでは町が内側から破裂する。どの管へ、どれだけ戻すかまでが清掃だった。
次の瞬間、青い光が地下を駆けた。
街路の魔導灯が端から端まで点き、城壁に七重の光膜が戻る。突進した攻城獣は結界へ激突し、角を折って転がった。
地上から勝ち鬨が響く。魔導通信には、結界出力が以前より安定したという報告が続いた。詰まりだけでなく、長年放置された細い澱まで取り除かれていたのだ。
宮廷魔術師は汚水の中で膝をつき、先月突き返した報告書を自ら破った。代わりにネグァンの工具箱へ王家の紋章を刻んだ。直後、古びた身分札の文字が、水路を走る光に洗われていく。
【職業「下水保守員」が上位職「霊脈疏通師」へ書き換えられました】