白い手袋の青
瀬戸口唯が白い検品手袋でデニムのスカートを撫でると、指先が淡い青に染まった。
翌朝から百貨店の期間限定売り場で販売する新商品。三百着はすでに箱詰めされ、トラックが倉庫の外で待っている。仕入れ責任者は青い手袋を見ても、驚かなかった。
「濃色デニムなら普通。注意札を一枚入れて出して」
検査表の乾摩擦は合格になっている。だが唯が触れたのは、雨に濡れた想定で少し湿らせた一着だった。商品ページの写真では、モデルが白いバッグを肩から下げている。
後輩は出荷判定欄へ印鑑を押しかけていた。
「止めたら、売り場が空になりますよね」
「空いた棚は戻せるけど、染まった服は戻らないよ」
唯は白い綿布をスカートへ当て、軽く十回こすった。布には、バッグの形を想像できるほど濃い青が残った。別の箱から三着を抜くと、すべて同じだった。今季から染色工場が変わったのに、検査条件だけが昨年のまま使われていた。
唯は売り場用の白い合皮バッグにも布を当てた。青は一度で縫い目へ入り込み、乾いた布で拭いても残った。商品説明の注意書きは、〈淡色品との組み合わせにご注意ください〉の一行だけ。試着室で白いコートを重ねる客や、雨の日に子どもを抱く人まで、その一行で責任を渡すつもりなのだと分かった。
責任者は腕時計を見た。
「売ってから交換対応にすればいい。予定を守るのも品質だよ」
唯はトラックの積み込みを止めた。出荷保留の連絡を百貨店へ送り、代わりに定番商品を朝一番で補充する在庫を確保した。後輩には、乾いた布と湿った布の両方で確認し、結果を写真に残す新しい検品票を渡した。
「今日の判定は私の名前で出す。印鑑は押さなくていい」
責任者が何か言う前に、唯は三百着の隔離札を印刷した。売上予測の赤字より、白い手袋に残る青のほうが、ずっと正確だった。
送信した報告書の末尾へ、染色工場での工程確認を自分が担当すると書いた。翌朝の始発列車を予約し、出張申請の〈目的〉に、再発防止、と入力した。