白い粉の重さ

押収袋を秤に載せると、五十二・八グラムを示した。

榎並慶介巡査部長は、もう一度ゼロ点を確かめた。八束亜希のアパートから押収された覚醒剤。現場計量は四十八・二グラムで、写真にも数字が残っている。乾燥して重くなる物質ではない。

「誤差だ」

麻薬捜査班長の蔵前峻警視が言った。

「袋ごとの重さを測った者と、中身だけ測った者がいた。それで終わりだ」

取調室の向こうで、八束は密売を否認している。彼女は生活用品の転売で前歴があり、家には粉ミルクの小分け袋が山ほどあった。捜査班は、その一袋を覚醒剤として押収したと発表する予定だった。

慶介は証拠袋を光へかざした。現在の内袋は無地だ。だが押収時の胸部カメラ映像には、右下に小さなウサギの印刷が見える。八束が粉ミルクを分けるために使っていた袋と同じものだ。

「内袋が違います」

「鑑定で覚醒剤が出た。それが証拠だ」

「だから問題なんです。現場の袋と、鑑定した袋が違う」

蔵前は椅子を引き、慶介の肩へ手を置いた。

「今年の摘発目標まで、あと五十グラムだった。情報提供者を守るためにも、この一件は必要だ。八束には別の売買記録もある。罪のない人間じゃない」

「別の罪で、この袋を本物にはできません」

「正論で班を潰す気か」

慶介は袋の封印を拡大した。採取時に使った封緘テープは黄色だったはずだが、今は白い。保管履歴には、蔵前の補佐官が鑑定搬送前の十八分間だけ持ち出した記録がある。返却時の重量欄だけは、不自然に空白だった。その十八分で、粉ミルクは覚醒剤へ替わり、四・六グラム重くなった。

壁越しに八束の声が聞こえた。

「何度言えばいいの。あれは赤ん坊のものよ」

慶介には、彼女の他の罪を量る権限はない。ただ、この秤に載っている嘘の重さなら報告できる。

彼は現場映像の静止画、重量差、封印色、持出履歴を一つの資料にした。蔵前が端末の電源へ手を伸ばす。

慶介は先に報告書を確定し、証拠袋を机の中央へ置いた。

画面には『監察室へ送信済み』と表示された。