白紙の招待状

貴生は、私の家族を結婚式に呼ばなくていいと言った。

式場の担当者が「ご家族の連絡先だけでも」と言うと、彼は私より先に「ありません」と答えた。私はその強さに守られている気がして、訂正できなかった。

「環奈を傷つけた人たちに、幸せを見せる必要はない」

その言葉に救われた。妹は昔から私を妬み、母は何でも妹の味方をした。婚約を知らせても返事すらない。やはり縁を切って正解だった。

ただ、貴生の行動には妙なところがあった。郵便受けの鍵を私に渡さず、毎朝、出勤前に必ず中を確かめる。招待状の宛名書きでも、私の実家分だけ封筒を白紙のまま持ち去った。

「捨てておくよ。見るとつらいだろうから」

優しい人だと思った。

私の味方は彼だけだった。

貴生と付き合ってから、私は母の番号を変え、妹のアカウントをブロックした。彼が横で見守り、送る文章も一緒に考えてくれた。家族にされた嫌なことを思い出せない時は、貴生が代わりに並べてくれた。妹の結婚式で私だけ席が遠かったこと、母が私の進路に反対したこと。細かな傷まで覚えてくれる人は初めてだった。

式の一か月前、貴生が出張した。合鍵を探して書斎の引き出しを開けると、底板が外れた。中には私宛ての封筒が束になっていた。

妹から七通、母から四通。最初の手紙には、私を責めたことへの謝罪と、何度電話しても知らない男が出るという困惑が書かれていた。二通目には、貴生が私のアカウントから「二度と連絡するな」と送った画面の印刷。三通目からは、私の無事だけを尋ねていた。

帰宅した貴生に見せると、彼は怒らなかった。

「君は家族に弱いから、守ってあげたんだ」

それから彼は、母が私を支配していた証拠だと言って、匿名の脅迫状を差し出した。私は見覚えのある丸い字に安心しかけた。母なら書きそうな言葉ばかりだったからだ。

貴生は私の肩を抱き、「これで迷わないね」と囁いた。

封筒の口には、彼が招待状に使った糊と同じ、甘いラベンダーの香りが残っていた。