砦の灯りは家族数だけ
雪崩で高峰村を失った避難民百二人が、谷領の古砦へたどり着いた。
使える部屋は二十六。谷領の宿屋は満室で、夜には吹雪になる。
「身分の高い者から入れるべきです」
高峰村の旧役人が名簿を差し出した。
領主レオニスは受け取らず、砦の床へ白い升目を描いた。
「一部屋につき寝台四つ。乳児は寝台半分、寝たきりの者には一つ半。家族は分けない。爵位も財産も数えない」
割り当て表は、レオニスが一人で決めなかった。谷領の宿屋女将と高峰村の産婆に人数を別々に数えさせ、二つの数字が一致してから札を置いた。異議はその場で申し立てられ、変更理由も表の余白へ残された。
谷領の住民がざわつく。
「毛布代は誰が払う」
レオニスは門税の帳簿を開いた。
「冬の三か月だけ、空荷ではない商車一台につき銅貨二枚。その全額を砦の寝具と薪へ。徴収額、購入品、残金は門に掲示する。足りなければ、増税ではなく不足をそのまま書く」
初日の不足は毛布三十七枚、窓板十二枚、薪九日分。さらに乳飲み子用の籠が四つ足りなかった。レオニスは見栄えの悪い数字も消さず、役所の備品だけ先に充足済みと書くことを禁じた。
数字を隠さなかったため、谷領の織屋が古毛布の継ぎ直しを申し出た。大工は「板代だけ出るなら手間賃はいらん」と窓へ向かった。避難民の猟師たちは、雪崩を避ける森道を知っていると薪集めに立った。
命令書は一枚も出なかった。
それでも夕方までに、不足の数字へ横線が増えていった。
旧役人は最後まで一人部屋を求めたが、割り当ては四人部屋だった。向かいの寝台には谷領の荷運び人がいる。
「不満なら宿を自費で取れる」と言われ、彼は黙って毛布を運んだ。
夜、レオニスが砦を見上げると、二十六の窓すべてに灯りがあった。
明るさは部屋の広さでも身分でもなく、眠る家族の数に応じて同じ油が配られている。
門番が最後の掲示を打ちつけた。
『本日の空き寝台、二。吹雪の旅人にも使用可』
その文字を照らすため、高峰村の少年が自分から灯芯を一本足した。