祖母の裁縫箱に入った銀テープ

小此木紬は、遠征から持ち帰った銀テープを祖母の裁縫箱に隠していた。

実家では、舞台を追って全国へ行くことを話していない。母には「研修」、父には「友人の結婚式」と言い、祖母には何も言わなかった。二十五歳にもなって架空の騎士役に夢中だと知られたら、子ども扱いされる気がした。

名古屋公演の翌朝、実家で法事の手伝いをしていると、祖母が裁縫箱を開けた。糸巻きの下から、青く光る銀テープがほどけて床へ落ちる。

遠征から帰るたび、紬は駅のトイレで推し色のリボンを外し、キャリーケースのタグも裏返してから実家へ入った。銀テープは長すぎて鞄に収まらず、折れば文字が傷む。捨てることもできず、誰も開けないと思った裁縫箱へ預けたのだった。

印字された文字は隠しようがなかった。

《黎明騎士団 名古屋公演》

紬は台所から飛んできて、「ごみだから」と奪い取ろうとした。祖母は手を引かず、テープの端を指で確かめた。

「丈夫そうだね」

それだけ言って、古い布と透明ビニールを出した。

昼過ぎ、祖母は紬の黒いキャリーケースに、小さな持ち手カバーを縫いつけた。針が布を抜けるたび、銀色がきらりと揺れる。中に銀テープが挟まれ、青い文字が窓のように見えた。祖母は文字を隠す向きにもできたはずなのに、迷わず表へ出した。似た荷物ばかりの駅でも、すぐ見つけられる。

「次は、どこへこれを連れていくの」

紬は反射的に「仕事」と答えかけた。祖母は縫い針へ糸を通したまま、返事を急かさない。

「博多。二公演、観る」

声にすると、たいした告白ではなかった。祖母は「じゃあ、雨に濡れても平気にしないと」とビニールの縁をもう一度縫った。

夕食で母が、来月も研修なのかと尋ねた。

紬は茶碗を置いた。

「研修じゃないよ。好きな舞台を観に、博多へ行く」

父の箸が止まり、母が瞬きをした。その先の反応を待つ前に、祖母が完成した持ち手カバーを差し出した。

紬は銀テープの文字を表にして、キャリーケースへ留めた。