空になった鍋

鉄角ギルドの台所で、ネーヴェは遠征のたび鍋を空にした。

香草を刻み、硬い肉を煮て、魔力酔いの者には薄い皿を、怖がっている者には少し辛い皿を出す。食べた冒険者は「腹が減っていたからうまい」と言い、勝って戻れば自分の腕を誇った。

厨房係の貢献度は二%。遠征長シグリは経費削減の会議で鍋を叩いた。

「食事など保存パンで足りる。討伐へ出ない者へ報酬は不要だ」

ネーヴェは柄杓を置き、レシピ帳を胸に抱いた。最後の夕食だけはいつも通り作り、鍋を空にして去った。

次の遠征で、鉄角は保存パンをかじった。味に文句を言いながら進み、昼を過ぎる頃には足取りが乱れた。魔力酔いの魔術師は詠唱を飛ばし、盾役は手の震えを隠し、シグリは些細なことで怒鳴った。

洞窟の奥で幻惑胞子が舞うと、班は仲間を魔獣と見誤った。剣が向き合い、帰還石へ手を伸ばす者さえ、敵に見えた。

そこへ香ばしい匂いが流れた。洞窟の入口で、別の採取班へ食事を届けていたネーヴェが、小鍋を火にかけていたのだ。

「匂いを吸って。目ではなく、隣の人の呼吸を聞いて」

彼女の煮込みに使われた香草が胞子の働きを鈍らせる。班員は武器を下ろし、互いの顔を取り戻した。

帰還したシグリは、台所を再開すると宣言した。

「以前と同じ条件で雇ってやる」

ネーヴェは空の鍋を裏返した。

「食べる時だけ必要だと言い、数字を決める時には忘れる人の下では働きません」

その音に反応し、食料庫の管理核が記録を開いた。疲労を抑えた献立、毒を避けた食材、恐慌を防いだ配膳。勝利の前に必ずあった食事が、ひとつの線で結ばれる。

台所へ戻った冒険者たちは、棚に貼られた小さな札を読んだ。眠れない者向け、魔力を使いすぎた者向け、故郷の味が恋しい者向け。ネーヴェは勝つためだけでなく、誰も壊れず帰れるよう献立を変えていた。

彼女は厨房の再開ではなく、食材の購入と遠征中止を決める権限を求めた。腐った保存食で出発させる命令には従わない。

シグリが身分違いだと叫ぶと、空の皿を持った班員たちが、黙って彼から離れた。

《遠征維持・真正査定》

旧評価 二% → 真値 九十五%

総合貢献順位 首位:ネーヴェ

役職更新 厨房係 → 遠征補給総監

遠征長シグリ → 食器洗浄当番