空席を満席にする一皿

「部屋の空席数が分かるだけ? 給仕にも目がある。無能だ」

城下食堂の雇用試験で、エノクは皿洗いの札さえもらえなかった。

【固有技能:《空席勘定》――視界に入る部屋ごとに、今すぐ座れる席の数が分かる】

客の注文も好みも読めない。城主ルメアは、収穫祭の臨時食堂を任せる候補から彼を外した。

祭り当日、予定より三千人多い巡礼団が到着した。食堂街は入口だけが長蛇の列になり、奥の店には空席が残る。注文を聞いてから一皿ずつ作るため、客は一刻待ち、怒って帰る。腹を空かせた傭兵団まで加わり、街門では乱闘が始まりかけていた。城主は兵を出せば祭りが台無しになり、出さなければ外国人同士の刃傷沙汰になると頭を抱えた。厨房には食材があるのに、客の流れだけが詰まっていた。

エノクは鐘楼へ上がり、通りに面した食堂を見渡した。

空席二十七、十二、四十一。数字は絶えず変わる。

彼は店ごとの空席を色札で掲げ、案内役を交差点へ置いた。料理は三種類だけに絞る。豆と腸詰めの煮込み、焼きパン、酢漬け野菜。前世の食堂で学んだ定食方式だ。大鍋から同じ順番で盛り、注文を取らず、入口で木札と交換する。

さらに四人卓へ一人客を相席させた。食べ終わる時刻を十五分ごとに区切り、厨房には次に空く席数だけ皿を並べさせる。作りすぎも待ち時間も消えていった。

昼の鐘が鳴るころ、三千人は全員食べ終え、街門の傭兵団まで温かい煮込みを受け取っていた。食堂の売上は前年の倍、廃棄は半分以下だった。

旧来の店主が「客を番号のように扱った」と責める。

エノクは空席ゼロになった通りを示した。

「番号にしたのは客ではなく、待ち時間です。客には、座って食べる時間を返しました」

ルメアは自ら最後の定食を食べ、木札を裏返した。そこには臨時責任者の名が空欄で彫られている。

城主は炭筆でエノクと書き込んだ。

「空席を数えるだけの無能ではない」

ルメアは満席の通りを見渡した。

「おまえは街全体を、一つの大食堂として回したのだ」