竜の財宝を使い切った夜

竜を倒した夜、〈黄金牙〉は町一番の酒場を貸し切った。

金貨が卓上を飛び、吟遊詩人が十人呼ばれ、隊長ガルディオは全員へ宝石付きの外套を配った。経理担当マリエッタを「勝利の席で銅貨を数える貧乏神」と追放した直後だった。

翌朝、英雄たちは武器工房へ向かった。竜の爪で欠けた剣と盾を受け取り、そのまま次の依頼へ出るつもりだった。

鍛冶師は完成品を棚から下ろさない。

「修繕代、金貨百二十枚」

ガルディオが財布を逆さにすると、銀貨が七枚落ちた。竜の財宝は昨夜の宴と贈り物で消えていた。

「討伐報酬から払う!」

「もう受け取った報酬でしょう」

以前は、分配前にマリエッタが二割を装備修繕積立へ移していた。仲間たちは手取りが減ると毎回文句を言ったが、剣が折れても一度として工房に借りを作らなかった。

武器を預けたままでは、次の依頼を受けられない。依頼主は昼まで待ち、別の一団へ契約を移した。酒場では昨夜の請求書まで追加で届いた。

ガルディオは竜の牙を担保にすると言ったが、鍛冶師は首を振った。牙の鑑定料も保管料も必要で、それを誰が計上するのか分からないからだ。

工房の棚には、磨き上げられた剣が五本並んでいた。手を伸ばせば届く距離なのに、支払いがないため一本も持ち出せない。仲間たちは素手のまま、次の依頼人が別の一団と握手するのを窓越しに見送った。

その頃マリエッタは、新しい一団〈朝露の槍〉の初報酬を分けていた。取り分、治療費、修繕費を透明な三つの箱へ入れる。

若い剣士は、自分の袋が少し軽いのを見て笑った。

「次に剣が折れても、誰も頭を下げなくて済むんですね」

マリエッタは三つの箱の残高を全員へ読み上げ、鍵も一人で持たなかった。若い神官は、取り分が少ないのではなく、未来の自分たちへ先に渡しているのだと納得した。新しい一団には、宴より先に次の勝利が用意された。

工房組合は彼女を正式な会計士として登録した。

夕刻、ガルディオ本人が酒臭い息で現れる。

「宴の件は謝る。積立を戻せ。お前の席も用意する」

マリエッタは空になった旧会計箱の鍵を彼へ返した。

「席ではなく契約の話でしたら、追放を告げられた時点で終了しています」