竜を従える三つの言葉

獣使い見習いのリッカ・オルネは、谷で巨大な火竜と出会った。

逃げようとして足を滑らせ、思わず叫ぶ。

「おすわり!」

火竜は、その場に座った。

同行していた騎士が剣を落とした。

「竜を一声で?」

リッカ自身も驚いたが、すぐ胸を張った。

「言葉ではなく、魂へ命じたの」

「もう一度お願いします」

「お手」

火竜は前脚を差し出した。地面が揺れ、騎士は尻もちをつく。

「伝説の竜王使いだ!」

「まだ見習いですが」

「見習いでこれなら、卒業後は神を飼えます」

「神は散歩が大変そう」

村へ戻ると、長老が火竜の前へ供物を並べた。

「姫様、どうか我らをお救いください」

「姫ではありません」

「では女王様」

「呼び方は竜に聞いて」

火竜は尻尾を振った。

「女王様でよいそうです」

「どこで分かった?」

「魂です」

噂を聞いた王国軍も来た。

将軍が尋ねる。

「敵国の城を焼けと命じられるか」

「できますが、力は平和のために使います」

「なんと高潔な」

本当は「焼け」の命令を試す勇気がなかった。

王宮では実演会が開かれた。

「伏せ」

火竜は伏せた。

「待て」

火竜は動かない。

「回れ」

火竜は一回転し、柱を三本倒した。

大臣が拍手した。

「完璧だ!」

「柱が」

「演出です」

「予算は?」

「竜王使いの国家事業へ組み込みます」

リッカの自信は限界まで膨らんだ。

「この子は私の心を読みます」

「では言葉なしでも?」

「もちろん」

リッカは黙って右手を上げた。火竜は首をかしげた。左手を上げる。火竜はあくびをした。

「今日は気分が」

「竜にも休息は必要です」と大臣。

「主従関係が深いほど自由を尊重するのですね」

その時、谷から老人が走ってきた。

「ポチ! こんな所にいたのか!」

火竜は歓声を上げ、老人へ駆け寄った。

老人は首輪の札を見せた。

〈迷子の際は「おすわり・お手・待て」で保護してください。飼い主が迎えに行きます〉

リッカは札を二度読んだ。

「では私は?」

老人はにこやかに答えた。

「保護してくださった親切な方です」

竜王使いの称号は、迷子センターの感謝状へ変わった。