竜語は補助技能

「翻訳士は交渉席には置けても、魔導戦には置けん」

王立魔法院の卒業査定で、大賢者ヴァルメオンはそう言い切った。

【技能:《万象翻訳》――意味を持つ規則的な信号と自分の言葉を、相互に変換する】

ラティオの同期は炎や氷の上級職を得た。彼だけが、外国語と古文書の係。前世でプログラムを書いていた記憶からすれば「規則的な信号」の範囲は広そうだったが、査定官は耳を貸さなかった。

直後、魔法院の地下で封印警報が鳴った。

古代竜の心臓を動力にした防衛機構が暴走し、十二体の竜骨兵が地上へ向かっている。制御盤の文字は失われ、残っているのは骨同士が打ち鳴らす乾いた音だけだった。

「術式を破壊しろ!」

「壊せば王都の結界も消えます!」

魔術師たちが争う中、ラティオには竜骨の音が文章に聞こえた。

――管理者不在。敵味方識別表、空欄。全生命を侵入者として排除。

言葉ではない。長短の打音、間隔、尾骨の震え。それでも意味を持つ規則なら、技能は翻訳する。

「これは竜語じゃない。命令文です」

ラティオは制御盤へ手を置いた。返答もまた、理解される形へ翻訳される。彼が日本語で告げた言葉は、骨の震動と魔力の明滅へ変わった。

「管理者を仮登録。侵入者の定義を、王都結界の外側に変更」

竜骨兵が一斉に止まる。

次の瞬間、十二体は方向を変え、地下天井を突き破って飛び立った。王都の外では、警報に乗じた魔王軍がすでに城壁へ迫っていた。竜骨兵の咆哮が夜空を裂き、敵陣だけを焼く。

大賢者は呆然と制御盤を見た。

「古代竜の術式を、読んだのか」

「いいえ。機械が困っていたので、質問に答えただけです」

「機械、だと?」

ラティオは肩をすくめた。

「意味を送って、返事を待つものは、だいたい同じです」

ヴァルメオンは卒業名簿の『非戦闘要員』を燃やした。そして自分の金杖を、ラティオへ差し出す。

「翻訳士。いや、古代機構の唯一の対話者よ。魔法院の席を一つ空ける」

その声音に、もう侮りはなかった。