背負わない荷物持ち
灰谷レオンが冒険者組合を去るとき、受付係たちは「荷物持ちが一人減った」としか思わなかった。
彼の革鎧は肩紐が伸び、背中には巨大な荷籠の枠跡が残っていた。仲間が魔物を倒している間、レオンは薬瓶、野営具、剥ぎ取り素材、壊れた武器まで背負った。夜中に届く緊急連絡は決まっている。「明朝の遠征に参加」「荷が多い」「断るなら違約金」。契約が切れた後も同じ文面が届いた。
新しく得た《無限収納》には、所有者ごとの小部屋を作れた。レオンは迷宮入口に預かり箱を置き、冒険者へ鍵石を貸した。不要な荷物を入れ、必要なときだけ呼び出せる。帰還しなかった者の品は遺族へ自動返却される仕組みもつけた。
使用料は一日銅貨二枚。安いが、百人が使えば、レオン一人が静かに暮らすには足りた。箱の前に列はできても、彼の背中には何も積まれない。
開業初日、若い剣士が盾を預け、身軽になった肩を何度も回した。老魔術師は割れやすい触媒をしまい、「これで転ばずに済む」と笑った。レオンは、荷物を減らすだけで人の顔がこんなに明るくなるのかと知った。以前の仲間たちは、彼の背中にさらに積むことしか考えなかった。
《収納区画利用料:入金》
《今月の必要額を超過しました。新規契約を停止できます》
その一文を読んだとき、胸の奥で荷籠の紐が切れたようだった。
そこへ元組合長が駆け込んできた。
「ちょうどいい。百層攻略隊の荷役が逃げた。特別手当を出す」
「行きません」
「攻略に成功すれば名誉も手に入るぞ」
名誉なら、擦り傷だらけの革鎧に十分縫いつけられていた。どれも腹を満たさず、眠る時間もくれなかった。
「お前の取り柄は運ぶことだろう」
レオンは預かり箱を指した。箱は淡く光り、誰の背中も曲げずに働いている。
「だから、もう私が背負う必要はないんです」
組合長が値段を三倍まで上げても、答えは変えなかった。レオンは受付札を裏返して《本日休業》にし、川辺の二本の木へ布を結ぶ。無限収納から昼寝用の枕を取り出し、ハンモックへ沈んだ。