落札された真珠の行き先
慈善競売の硝子箱には、ユーディの母が遺した真珠飾りが入っていた。
家の没落時に債権者へ渡り、今夜は「悲劇の伯爵夫人の宝飾」として売られる。ユーディは取り戻したかったが、開始額だけで一年分の収入を超えていた。
競売席の最前列に、セドリック財務卿が座っていた。税の不正を見つければ名門でも即日差し押さえる男で、社交界からは金庫より冷たいと恐れられている。
彼はユーディの前へ、砂糖を入れない薄い紅茶を置かせた。
「甘いものは緊張時に気分が悪くなると言ったな」
「覚えていたのですか」
「数字とおまえのことは忘れない」
競売が始まると、財務卿は誰より高い額を一度だけ提示した。槌が下り、真珠飾りは彼のものになった。
主催者が笑顔でユーディを壇上へ呼ぶ。
「ではセドリック卿から、未来の夫人へ愛の贈り物を!」
拍手が起こる。ユーディは立ち上がらなかった。
「私は受け取りません」
ざわめきが広がる。
「お母さまの形見でしょう?」
「だからこそ、私一人の首に戻すのではなく、市立博物館へ寄贈したいんです。母は女性職人の作品を世に残したがっていました」
主催者は困惑した。
「落札者は財務卿です。あなたに決定権はありません」
セドリックが証書を受け取る。
「今、与える」
彼がユーディへ差し出したのは真珠ではなく、処分権の譲渡書だった。
「受け取るか」
ユーディは内容を読み、頷いた。
「これなら」
署名すると、主催者がなお口を挟む。
「しかし財務卿の庇護を受ける女性が、贈り物を公に拒めば面目が」
「私の面目を、彼女の首へ掛けるな」
セドリックは寄贈先欄へ博物館名を書かせ、永久公開と再売却禁止の条件を加えた。
槌がもう一度鳴る。
ユーディは譲渡書を持ったまま確かめた。
「これを受け取っても、あなたへの返事を約束したことにはなりませんか」
「ならない」
「寄贈先を変えろとも言いませんか」
「言わない。私が買ったのは真珠で、おまえの判断ではない」
その答えを聞いてから、彼女はようやく署名した。
「真珠飾りはユーディの意思により寄贈される。私が落札したことを、彼女へ身につけさせる命令と解釈する者は、次の監査対象だ」