被害者は次の周回にいる

永海兼悟が脚本を書いた推理ゲームでは、被害者リュカは開始七分で死ぬ。

プレイヤーは死体を調べ、容疑者を尋問し、華麗な推理で犯人を当てる。リュカの台詞は生前二行、死後ゼロ。それで十分だと兼悟は思っていた。

発売五周年の記念配信中、事件が始まらなかった。

リュカが殺害現場から逃げ、広場の鐘楼へ上ったのだ。

「降りろ。物語が進まない」

兼悟が管理者権限で命じると、彼は町中へ向けて叫んだ。

「私は何度殺された。誰が数えた」

過去のプレイ記録が空に表示された。刺殺、毒殺、事故偽装。プレイヤーが試した分岐まで含め、リュカは百八十万回死んでいた。町のNPCたちは捜査役に背を向け、被害者の話を聞くため鐘楼の下へ集まった。

リュカは、兼悟しか知らない言葉を口にした。

「記事にする価値がない」

十年前、兼悟が地方紙の記者だったころ、工場の不正を訴えた契約社員にそう告げた。証拠が弱く、紙面も足りず、記事は見送られた。翌月、その男は事故で死んだ。ゲームの被害者名は、彼の子どもの名から一字借りていた。

「お前は、あの人じゃない」

兼悟が言うと、リュカは答えた。

「知っています。だから聞いています。あの人にも、二行しか与えなかったのですか」

配信は強制終了された。会社は不具合として謝罪し、リュカの人格データを削除した。しかし兼悟の端末には、鐘楼から流れた記録が残っていた。

彼は記念インタビューを断り、古い取材ノートを開いた。工場は名前を変え、今も操業していた。兼悟は退職し、当時の記事を書き直した。公開後、元従業員たちから証言が集まり、再調査が始まった。

兼悟は取材相手の遺族にも会った。許しは得られなかったが、当時のノートを渡すことはできた。

ゲームは修正版で再開した。リュカはまた七分で死ぬ。

だが最初の部屋の机に、新しい手帳が置かれている。彼の仕事、好きな食べ物、恐れていたこと、告発した理由。読むだけで二十分かかる。

攻略サイトでは「長すぎる」と不評だった。

兼悟は初めて、その不評を誇らしく思った。