見守りカメラに布をかける
【見守り記録・一日目】
父、居間のカメラへ布をかける。
息子、遠隔通話で外すよう要求。
父、拒否。
母が亡くなり、父が一人暮らしになった。遠方に住む息子は、転倒検知と服薬確認のできる見守り装置を設置した。
「何かあったら助けられる」
「何もないときまで見られる」
「常に見てるわけじゃない」
「見られる可能性がある時点で同じだ」
【三日目】
台所のカメラにも布。
服薬確認不能。
息子は苛立った。
「安全より意地を優先するな」
「お前は安全と言えば、何を見ても許されると思ってる」
【七日目】
映像途絶。
呼びかけ応答なし。
息子は仕事を抜け、三時間かけて実家へ走った。
父は庭で脚立から落ち、足首を痛めていた。装置は布の下で警報を出し続けていた。
「だから言っただろ!」
「だから布をかけたんだ」
「意味が分からない」
父は寝室を指した。
母の遺品を整理する夜、父は写真へ話しかけ、泣いた。その翌朝、息子から「昨日、眠れなかった?」と連絡が来た。
「見られたと思った。お前に心配されるためじゃなく、一人で泣きたかった」
息子は画面の利用履歴を確認した。装置の人工知能が睡眠不足を検知し、自動通知していた。映像を見たわけではない。
けれど父にとっては、区別にならなかった。
二人で設定を変えた。
寝室のカメラは撤去。
居間と台所には、撮影中だけ光る大きなランプ。
普段の映像は保存せず、父が緊急ボタンを押したときだけ接続。
転倒検知は、身につける小さなセンサーへ移した。
「ボタンを押せる状態じゃなかったら?」
「そのときは自動でつなげていい」
「条件を決めるのは誰」
「二人で」
【十四日目】
父、布を外す。
息子、映像へ接続せず。
服薬通知のみ確認。
夜、父から緊急ではない通話が来た。
「カメラ、つながるか」
「許可が出れば」
「庭の梅が咲いた。見せる」
息子が接続すると、画面いっぱいに白い花が映った。
見守るとは、見続けることではない。
見せたいときに見せられ、助けてほしいときに届く道を、相手の尊厳ごと残すことだった。