見積書の単価

久慈川結芽が介護福祉士だと知った日、義母の眞砂は鼻で笑った。

「人の下の世話をする仕事でしょう」

親戚の食事会では給仕をさせ、職業を尋ねられると「家事手伝い」と答えた。夫の壮介も訂正しなかった。結芽が勤続表彰を受けた日でさえ、眞砂は「誰にでも取れる資格で大げさね」と祝いの席を断った。

その義父・泰蔵が脳出血で倒れ、右半身に麻痺が残った。

退院前の家族会議で、眞砂は迷いなく言った。

「結芽さんが仕事を辞めれば解決ね。資格もあるし、二十四時間看られるでしょう」

義妹は旅行の日程を確認しながらうなずく。

「お姉さん、プロなんだから安心だよね」

結芽は厚い封筒を三人へ配った。

《在宅介護業務見積書》

身体介護、夜間待機、通院同行、調理、清掃。法定の休憩と週二日の休日、代替職員費、社会保険、深夜割増を含め、月額七十八万四千円。

眞砂は見積書を投げた。

「家族から金を取るつもり?」

「では、家族として扱われた記録を見せてください」

結芽は、眞砂が作った親族名簿を開いた。結芽の欄だけ《部外者》。結婚式の席次表にも、法事の案内にも名前がない。壮介が抗議しなかったことまで、日付順に残っていた。

「無料で使うときだけ家族、技術を見下すときは部外者。その契約には応じません」

壮介が慌てた。

「見積もりなら払えばやってくれるのか」

「いいえ。これは、皆さんが私に求めている労働の価値を見せるためのものです」

結芽は、県外の特別養護老人ホームから届いた辞令を置いた。翌月から管理職として赴任し、住居も決まっている。

退院調整看護師が最後の確認をした。

「ご自宅で家族介護を担える方はいらっしゃいますか」

眞砂は結芽を指さしたが、看護師は本人の返事だけを待った。

「いません」

看護師は判定欄へ赤い印を押した。

《家族介護力なし――施設入所を優先》

その下に、眞砂と壮介の確認欄が並んだ。