規則を燃やす
芹沢は、説明カードを細く裂き、卓上の蝋燭へ差し込んだ。
紙の端が一気に赤く走る。
「正気か!」
隣の透明室で篠宮が叫び、紀平と真鍋も足を止めた。四人は同じ大きさの密閉室に一人ずつ入り、同じ高さの蝋燭を一本ずつ与えられている。壁の規則は簡潔だった。
《五分後、室内酸素濃度が最も低い一名を勝者とする》
安全装置は八パーセントで作動する。だから死ぬ前に扉は開く。それでも、敗者の床には毒針が出る。
三人は開始から走り、腕立て伏せをし、肺で酸素を奪おうとしていた。人間一人が五分で消費できる量など限られる。芹沢だけは動かず、説明カードを燃料に変えた。
火は彼より速く酸素を食う。しかも主催者が雰囲気作りに置いた蝋燭は、火種まで提供している。
篠宮も真似しようと壁の紙へ手を伸ばした。だが各室の説明カードは一枚だけ。彼は汗で濡れた手で握り潰しており、紙はうまく燃えない。紀平は上着を脱いだが、防炎素材だった。真鍋は蝋燭そのものを倒し、非常装置に消火されてしまう。
芹沢は燃える紙を金属皿の上で扇いだ。文字が黒く縮み、《酸素濃度》の四字が最後に灰になる。
終了ベル。
《第一室、12.6%。第二室、18.9%。第三室、19.1%。第四室、19.0%》
芹沢の錠だけが外れた。
「規則を破った!」と篠宮が怒鳴る。
「いや、燃やした」
芹沢は灰を指先で払った。
規則は暗記済みで、カードを保存しろとは言われていない。主催者は参加者同士が体力を競い、最後に殴り合う絵を欲しがった。だが勝利条件が求めたのは努力ではなく、酸素を減らすことだけだ。
煙感知器は天井ではなく、各室の出口側に付いていた。芹沢は炎を皿の高さから上げず、紙を少量ずつ足して誤作動を避ける。乱暴に上着を燃やすのではなく、酸素を消費しながら安全装置の条件も外さない。その冷静さが、ただ運動した三人との決定的な差になった。
扉が開き、芹沢はまだ煙る皿を置いて外へ出た。