証明写真の四枚目
鴻上映見は、最終面接に落ちた帰り、駅前の証明写真機へ入った。
もう撮る必要はない。それでも履歴書用の写真が切れていると、人生まで品切れになった気がした。
椅子に座り、八百円を入れる。
一枚目、目を閉じた。
二枚目、口角が引きつった。
三枚目、前髪が跳ねた。
画面にはない四回目のフラッシュが光った。
排出口から出てきた写真には、四十五歳くらいの女が写っていた。映見と同じ顔で、スーパーの緑色のエプロンを着け、頬に青い絵の具をつけている。
背後で咳払いがした。
振り向くと、その女が狭い機械の中に立っていた。
「詰めて」
「誰ですか」
「十九年後の鴻上映見」
写真が乾くまでしかいられない、と女は濡れた台紙を扇いだ。
映見はエプロンを見た。
「建築家じゃないんですか」
「今は惣菜主任」
胸の奥が冷えた。七年勉強した。資格も取った。今日落ちた会社は第五志望だったが、それでも建築を諦める未来など考えたくなかった。
「失敗したんですね」
未来の映見は、ひどく嫌そうな顔をした。
「その言い方、十九年たっても腹が立つ」
「だって」
「建築事務所には六年いた。辞めたのは、父さんが倒れて店を手伝ったから。店の改装をした。商店街の休憩所も設計した。今、壁に子どもたちと絵を描いてる」
頬の青を指でこする。
「有名には?」
「ならない」
「後悔は?」
「する。しない日もある」
台紙の端が白く乾き始めた。
映見は慌てた。
「じゃあ、今日の会社に受かる方法は」
「ない。落ちたから、駅の反対側の小さな事務所へ応募する」
「そこなら受かる?」
未来の映見は笑った。
「三回落ちる」
「最悪」
「四回目で入る」
写真が完全に乾き、女は消えた。
残った四枚目を切り離すと、エプロン姿の映見は、最初に見たときより少し得意そうに見えた。
翌朝、映見は駅の反対側を歩いた。
古い雑居ビルの二階に、小さな設計事務所があった。扉の求人票には《未経験に近い人、歓迎。諦めの悪い人、なお歓迎》とある。
映見は四枚目を財布へしまい、呼び鈴を押した。