謝罪配信のミュートボタン

《騒音配信で眠り竜を起こした張本人》

《御影すずが救助? まず謝罪しろ》

《また大声リアクションで再生数を稼ぐんだろ》

 音喰い竜の巣で、十一人の見習い探索者が壁際に伏せていた。

 竜は瞼を閉じている。それでも首の鱗は、誰かが息を呑むたびにわずかに立った。鼻孔から漏れる熱だけで、床の砂が赤く焼けていく。

 御影すずは入口で頭を下げた。普段なら明るい挨拶で始まる画面に、今日はBGMも字幕演出もない。炎上後に事務所から休止を命じられたが、取り残された見習いたちの名簿を見て、機材だけを抱えて戻ってきた。

「私の旧型マイクが警告音を増幅した。原因は私です」

 短く認め、言い訳を足さない。泣いている少年へ、唇だけで「もう大丈夫」と伝える。

《謝罪したところで動けない》

《三十デシベル超えたら即座に捕食行動》

《救助魔法の詠唱も、転移装置の起動音もアウト》

 すずは配信画面のミュートボタンを一度だけ押した。

 音が、世界から消えた。

 竜の鼻先で落ちた小石が、無音のまま砕ける。見習いたちの靴も、鎧も、泣き声も、何ひとつ空気を震わせない。

 すずの技能《配信圏静音》は、マイクが拾うはずだった音をすべて無効化する。普段の配信で声が大きいのは、解除後に声量を戻す訓練を続けていたからだった。

《範囲、巣全体まで広がってる》

《音圧計ゼロ。竜の聴覚判定も停止》

《すずが手で歩数を数えてる。急がせず、一人ずつ》

《旧型マイクの不具合報告、配信前に運営へ三回送ってたぞ》

 十一人は列になり、すずの横を抜けた。

 最後の少女が転びかける。すずは抱き起こしても声を出さず、埃を払って背中を押す。

 全員が防音扉の外へ出ると、すずは最後に巣を離れた。扉が閉まってからミュートを解除する。

「起こした責任は消えません。でも、眠らせたまま返せました」

《救助完了、負傷者ゼロ》

《謝罪配信じゃなくて実行配信だった》

《炎上切り抜き、元データ照合で誤編集認定》

《タイトル変更きた》

 急上昇一位の動画名が、その場で更新された。

【『騒音女、竜を起こして逃亡』→『一度のミュートで十一人を無傷救助』】