豆乳ラテを止めた朝

朝八時の駅前店は、季節限定の豆乳ラテを目当てに列ができていた。

遠矢朔良は来週から食品表示の会社へ移る。カフェチェーンで働く最後の月曜日くらい、何事もなく終わってほしかった。

「乳製品は入っていませんよね。乳アレルギーの娘と同じものを飲みたくて」

注文した客が、隣にいる小学生の手を握りながら念のため尋ねた。店内には焙煎豆と甘いソースの匂いが重なり、原材料の違いを香りで見分けることはできなかった。新人はメニュー表の〈植物性ミルク使用〉を指し、「はい」と答えかける。

朔良はカウンターの下にあるキャラメルソースの箱を見た。昨日から納入業者が変わり、容器のふたが茶色から金色になっている。原材料欄には脱脂粉乳。旧製品にはなかった文字だった。客は財布から小さなアレルギーカードを出し、念のため聞いてよかった、と息を吐いた。

「少しお待ちください。この商品は今、お出しできません」

列の後ろでため息が上がった。店長は、ソースを少なめにすれば問題ないだろうと小声で言った。だが少ないことと、入っていないことは同じではない。

朔良は注文を取り消し、客には豆乳とコーヒーだけで作る別の商品を提案した。新人へは、答えかけたことを責めなかった。

「メニューにそう書いてある。信じたあなたじゃなく、変更を知らせなかった手順を直そう」

季節商品を販売停止にし、全店の端末へ注意を送る。納品箱を開けた人が原材料変更の有無へ印を付ける欄を作り、メニュー表示を〈乳成分不使用〉から〈豆乳使用・ソースに乳成分を含む〉へ直した。

店長は売上画面を見て、困った顔をした。

「表示会社へ行くんだって? 現場の方が向いていると思うけど」

朔良は現場が嫌いで辞めるのではない。目の前の一杯を止めるだけでなく、何百店舗の一杯が同じ情報で作られるようにしたいのだ。

販売停止の報告を送った直後、転職先から入社意思の最終確認が届いた。朔良は、研修初日に店舗スタッフの意見を聞く時間を設けてほしいと返信する。了承の文字を見て、〈その日程で入社します〉と返した。最初の店舗訪問先には、いま立っている駅前店を希望した。

列が短くなったころ、新人が新しい表示をレジ横へ貼った。朔良はそれをまっすぐに直し、次の注文を受けた。