赤い水が井戸から出た日
村の子どもが次々に腹を壊し、井戸守の慧が犯人にされた。
「水を怠けて汲んだからだ」
村長のドルメンは、異世界から来た慧の首に縄をかけようとした。井戸水は澄み、匂いもない。だが病人は三日で四十八人。治癒薬は底をつき、元気だったパン屋まで店を閉めた。水を使わず暮らせる者はいないため、村人は犯人とされた慧を罵りながらも、同じ井戸へ列を作るしかなかった。桶を抱えた母親たちは、病床の子を残して並んでいた。
慧が使った知識は一つ。便所と井戸を、地下の水の流れで離すことだった。
井戸より高い斜面に共同便所がある。それが雨のたび、地中を通って井戸へ流れ込む。慧は説明の代わりに、便所の穴へ赤蕪の濃い汁を一桶流した。
村長は笑った。
「土の下を色が歩くものか」
昼過ぎに雨が降った。村長は勝ち誇ったが、夕鐘のころ、井戸から汲んだ水が薄桃色になった。二杯目はさらに赤い。子どもたちが飲もうとした桶を、慧が寸前で蹴り倒した。
広場が静まり返った。透明だった災いに、初めて色がついたのだ。
慧は便所を井戸より低い丘の向こうへ移し、飲み水は反対側の湧き水から引いた。村人総出なら一日で終わる距離だった。豪華な魔法陣も薬草も使わない。ただ、水の上手と下手を逆にしない。
翌日の井戸水には赤色が残ったため封鎖。新しい水路からは無色の水が流れた。三日目、新たに腹を壊した者は二人。四日目はゼロ。病床の子どもたちも粥を食べ始めた。
村長は、慧を縛るための縄を握ったまま診療所の札を数えた。四十八、二十六、二、ゼロ。数字が日ごとに細くなっている。
「井戸守などと呼んで悪かった」
慧は謝罪を求めなかった。赤蕪汁の残る桶を洗い、次の集落へ水路を引く距離を測った。
そこへ領主の騎士が駆け込む。隣の三村でも同じ病が出たという。
村長ドルメンは縄を地面へ捨て、村の印章を慧の測量板へ押した。
「水路奉行として雇う。三村どころか領内すべての井戸を見てくれ」
井戸端では、回復した子どもが最初の無色の一杯を飲み干した。