赤い紹介状は皆の前で

日和の婚約が壊れたのは、親友だと思っていた梨奈から赤い封筒を渡された夜だった。中には、婚約者の彰人が別の女性と暮らしているという告発文と写真。日和は本人に確かめる勇気を持てず、翌朝、指輪を郵送した。半年後、その写真が合成だったと知ったときには、彰人は海外へ転勤していた。

後悔を抱えたまま眠り、目覚めると同じカフェ。赤い封筒がテーブルを滑ってくる。

「日和を思って言うの。信じるなら、今は開けないで」

一度目と同じ台詞だった。封筒の角には、梨奈がいつも使う薔薇の香水が染みている。

日和は受け取ると、鞄へ入れず、その場で封を切った。

「信じたいからこそ、彰人さんの前で読みます」

「え?」

日和はすでに彼を呼んでいた。前の人生で逃げた十五分をやり直すためだ。店の扉が開き、彰人が濡れた傘を畳みながら近づいてくる。梨奈は封筒を取り戻そうとしたが、日和は写真を窓辺へ掲げた。

「この写真、三年前のものだと書いてある。でも用紙の透かしは、先月うちの会社が採用した新型ね」

日和は印刷会社の営業だ。前回は涙で見えなかった小さな違和感が、今回はくっきり見えた。さらに写真の裏には、梨奈の会員番号が印刷されたコンビニプリントの控えが残っている。

彰人は写真を一度見ただけで、スマートフォンを出した。

「写っている部屋は、僕が設計を担当したモデルルームです。元データも提出できます」

梨奈の顔から色が消えた。

「違うの、私はただ、日和が傷つく前に――」

「傷つくかどうかを決めるのも、話を聞く相手を決めるのも私よ」

日和は赤い封筒を彼女へ返した。前回ならこの時刻、彰人へ送信予約した《婚約を解消します》が発信される。日和は画面を開き、予約を削除した。

梨奈は何も言えず、赤い封筒を抱えて店を出た。日和は追わなかった。友情の形を守るために真実を捨てるのは、もう十分だった。

数秒後、彰人の端末が鳴るはずだった通知は来ない。彼は息を吐き、初めて苦笑した。

「一人で結論を出さないでくれて、ありがとう」

日和の指輪は、封筒の中ではなく、まだ左手で光っていた。