赤子を抱く湯番

雪原の村では、産後の女も凍った川で布を洗っていた。

家に大鍋がある者は少なく、共同の竈は男たちの道具洗いに占領されている。領主ミレイユが事情を知ったのは、乳飲み子を抱いたセシリアが川辺で倒れた日だった。

「浴場を造る。ただし、先に時間を決めましょう」

集会で男たちはざわめいた。木を切るのも石を運ぶのも自分たちだ、と。

ミレイユは黒板を三つに分けた。夜明けは坑仕事の者、昼は子どもと介助が必要な者、夕刻は全員。出産後四十日の家族には、昼の個室を優先して一日一刻確保する。優先は身分ではなく、身体の事情だけで決める。

費用は一世帯月二枚ではなく、大人一人につき銅貨半枚。払えない者は、薪割り一刻で二人分、洗濯布の繕い三枚で一人分。換算表は一年固定し、湯番でさえ変えられない。

「女の仕事は数えないと思っていたよ」

老女の呟きに、ミレイユは首を振った。

「数えない仕事ほど、村を支えています。だから同じ価値で表に載せます」

その日から、誰が何をしたかが札になった。樵は薪、裁縫師は暖簾、子どもは小枝拾い。セシリアは身体を休めながら、浴場で使う布の寸法だけを教えた。命令されなくても、空白の欄を見つけた者が自分の名を書き込んだ。

完成の日、最初の湯番に選ばれたのはセシリアだった。彼女は無料ではない。三枚の布を繕い、きちんと一人分を納めている。

暖かな個室で、彼女は赤子の足先にそっと湯をかけた。縮こまっていた小さな指が、花びらのように開く。

外では、新しい時間表の一番上に赤い札が掛かった。

――昼一刻、いちばん弱い者から。

待合室では、昼の時間を不要だと言っていた木こりが、赤子用の浅い桶を削っていた。彼は自分の名を寄付欄へ書かず、『余り木』とだけ記した。すると老女がその横へ、削るのにかかった一刻も価値だと書き足した。男は照れながら消さなかった。働き方の違う者たちの一刻が、同じ幅の欄に並ぶ。黒板の空白は、もう誰かを黙らせる場所ではなかった。

湯気は扉の隙間を抜け、待っていた村人たちの頬を同じように温めた。