追放地図師は転移砲を帰り道にする
地図師レンゾは、戦場へ筆を持ってきたことで追放された。
勇者は、道など先頭を歩けば分かると言った。賢者は転移魔法があれば地図は不要だと笑った。レンゾが崖や水脈を記しても、功績欄には一度も名が載らなかった。
彼の技能は、紙の上でしか役立たないと思われていた。
【職業技能《経路記録》:視認した移動一回の始点・終点・通過経路を地図へ固定する。】
追放された翌朝、王都へ青白い光柱が落ちた。
上空のどこにも敵影はない。だが光柱が落ちるたび建物が円形に消え、三撃目で城壁が半分なくなった。敵国の浮遊要塞が、別空間から《転移砲》を撃っているのだ。
宮廷魔術師には射手の位置が分からない。攻撃だけが空間を渡り、発射地点を隠している。
四撃目が孤児院を狙った。
レンゾは屋根へ上がり、白紙の地図を広げた。光が雲の裏からではなく、何もない空間の裂け目から現れ、孤児院まで走る。その一瞬を、彼は目を閉じず見届けた。
地図に一本の青線が刻まれる。
始点は、誰にも見えない異空間の要塞。
終点は、王都。
転移砲も移動には違いない。光が通れたなら、そこには道がある。
レンゾは地図を上下逆さに置いた。
「道は、行き先を入れ替えても道だ」
固定された経路が石畳の上へ浮かび、王都から虚空へ延びる青い坂となった。孤児院を消すはずだった四撃目は、逆向きの道へ吸い込まれ、発射元へ戻る。
見えない空で爆音が響いた。迷彩を失った巨大要塞が雲間から姿を現し、砲塔だけを失って傾く。
王都騎士団の馬が、青い坂の前でいなないた。
レンゾは筆を置き、道の端を指した。
「敵城まで、迷う場所は一つもありません」
さっきまで地図を笑っていた勇者たちが、彼の描いた道へ一列に並んだ。
騎士たちが駆け上がるたび、地図の余白へ新しい足跡が刻まれた。誰かが通った道は、次の者にとって少し広く、少し安全になる。最後尾には孤児院の年長児たちが立ち、レンゾが昔描いた避難路を握って負傷者を誘導していた。彼の線は、初めて戦果だけでなく帰還者の数を増やしていた。
【職業《地図師》が上位職《次元航路師》へ書き換わりました。】