重装騎士の南瓜鍋
ガロウは王国随一の重装騎士だった。
城門より重い盾を持てたが、和平の宴で「もう戦は要らない」と口にした翌日、辺境へ追いやられた。
渡された荒れ地で、彼が最初に植えたのは南瓜だった。鎧より丸く、盾より役に立つと思ったからだ。
鎧を脱いだ肩で水桶を運び、盾を立てて北風を防いだ。花が咲いた朝には蜂が来るまで見張り、蔓が伸びるたび踏まないよう畑の道を変えた。戦場で部隊を守るより、小さな葉を守るほうが神経を使った。
秋の午後、一本の蔓の先に、橙色の実が一つだけ育った。
大きさは兜ほど。表面には土がこびりついていた。
ガロウは大剣を抜きかけ、やめた。
南瓜の収穫に剣を使えば、また何でも戦にしてしまう。
腰の小刀で太い蔓を一度だけ切る。ぱきりと乾いた音がして、実の重みが両腕へ移った。
抱え上げると、見た目以上にずしりと重い。だが命を預けられた重さとは違う。落としても泣くのは自分だけで、誰かが死ぬことはない。その当たり前が、ガロウには何より贅沢だった。
小屋まで運ぶ途中、王都の騎士が馬で駆けてきた。
「ガロウ卿! 北門で魔獣騒ぎです。陛下は帰還すれば爵位を戻すと!」
差し出された命令書には、金の封蝋が輝いていた。
ガロウは受け取り、南瓜の隣へ置いた。
どちらが重いか比べる必要もなかった。
南瓜を半分に割る。種をすくい、厚い果肉を鍋へ入れ、干し肉と山羊乳で煮た。
ぐつぐつと橙色の角が崩れ、甘い匂いが立つ。待ちきれない牧羊犬が床を爪で掻いた。
「卿、返答を」
「今夜は無理だ」
「なぜです」
「初陣より大事な初物が煮えている」
塩を振り、木匙で一口すくう。
舌に触れた南瓜はほろりとほどけ、肉の塩気の奥から、陽だまりのような甘さが出た。
犬の皿にも、冷ました一匙を入れる。
王都の騎士は呆然と鍋を見た。やがて腹が鳴った。
ガロウは笑い、もう一つ椀を出す。
「命令書は食後に読む。席があるうちに座れ」
大剣は壁に掛かったまま、鍋の蓋だけが湯気に押されてかたかた鳴っていた。
その音は、戦勝の太鼓よりもずっと穏やかで、ずっと誇らしかった。