金曜欠勤証明書

金曜日が消える会社では、全社員が木曜の退勤前に欠勤証明書を出す。消えた日に出社しなかったことを証明する書類で、上司の印がなければ無断出勤になる。無断出勤を三度すると、その社員は金曜日だけの部署へ異動する。

皿井景真は、二度目の警告を受けていた。

「また君の社員証が金曜に入館している」

人事課長は端末を向けた。記録には午前八時十二分、南口ゲート通過とある。景真は木曜の夜、社員証を首から外して自宅の引き出しへ入れた。金曜は存在しなかった。次に目を開けたときは土曜だった。

「盗難では?」

「金曜に盗難届は出せない」

課長は当然のように言った。

三度目を避けるには、今週だけ社員証を会社の金庫へ預けるしかない。景真は木曜の夕方、人事へ渡した。受領票には土曜返却とある。

その夜、恋人の弓佳から電話が来た。別れたいという。理由は毎週金曜、景真が知らない女と駅前を歩いているからだった。

「写真もある」

送られてきた画像には、確かに景真がいた。自分の紺のコート、自分の歩き方。隣の女の顔は街路樹で隠れている。撮影日は金曜日。

「その日は消えてる」

「みんな同じよ。でも、あなたはいる」

弓佳はそれだけ言って切った。

翌土曜、人事の金庫は空だった。社員証はすでに返却済みと記録されている。受領者の署名は景真自身の筆跡だった。

三度目の無断出勤が確定し、景真は金曜業務室へ異動になった。入口は社屋の非常階段と十二階の間にあり、木曜の夜だけ扉が現れる。

室内には机が一つ。椅子が二つ。壁には歴代担当者の社員証が並んでいた。一番新しいものは景真の社員証で、写真の顔だけが笑っている。

机の引き出しに業務日誌があった。金曜の景真が一年分を書いていた。弓佳と会ったこと、昇進試験を受けたこと、彼女へ指輪を渡したこと。最後の頁には「土曜の俺は何も決めない。だから金曜の俺が全部決める」とある。

次の木曜、景真は異動を拒否する退職届を書いた。だが提出箱には、すでに一枚入っていた。弓佳との婚姻届だった。夫の欄には金曜の景真の署名がある。

その上に、見覚えのない赤いネクタイが丁寧に畳まれていた。裏地には小さく、土曜日の自分へ、と刺繍されていた。