銀の足跡で書く
転校初日、少女は校庭の隅で蝸牛を見つけた。
誰とも話せず、昼休みを一人で過ごしていた。
理科室の先生から、透明な薬を一滴もらった。
「殻へ垂らすと、朝まで這った跡が言葉に読めるよ」
少女は蝸牛を植木鉢へ置き、紙を敷いた。
翌朝、銀色の線が一文になっていた。
「大きな葉の裏は、雨が遅く来る」
少女はがっかりした。
友達の作り方や、前の学校へ戻る方法を聞きたかった。
次の日、紙へ質問を書いた。
「知らない場所で、怖くないの?」
蝸牛の跡は、
「知らない葉は、裏から食べる」
と答えた。
意味が分からない。
少女は放課後、校舎を表側からではなく裏側から歩いてみた。
体育館の裏で、一人で縄跳びをする子がいた。
教室ではよく笑い、友達が多そうに見える子だった。
少女が声をかけると、相手は縄を止めた。
「一人になりたくて、ここにいるの」
友達がいない少女とは、逆の理由だった。
二人は並んで座った。
何を話せばいいか分からず、蝸牛の話をした。
相手は興味を示し、翌日の銀の跡を一緒に読もうと言った。
その夜、二人で紙へ書いた。
「友達になるには、どうしたらいい?」
翌朝、蝸牛は紙の端から端まで長く這い、
「同じ葉を食べなくても、同じ雨を待てる」
と残した。
二人は友達になった。
ただし毎日一緒ではない。
相手が一人でいたい日は、少女は別の場所で本を読んだ。
少女が前の学校を思い出して泣く日は、相手が黙って隣にいた。
しばらくして、植木鉢の蝸牛がいなくなった。
窓が少し開いていた。
少女は探したが、見つからない。
最後の紙には、途切れた銀の線が残っていた。
途中までしか読めない。
「遅いものは、別れも――」
続きは分からない。
少女は自分で書き足した。
「急がない」
転校から一年後、今度は友達の方が引っ越すことになった。
二人は毎日会う約束をしなかった。
手紙も必ず返すとは決めなかった。
ただ、雨の日に蝸牛を見つけたら写真を送ることにした。
別れの日、校庭の葉の裏に小さな殻があった。
同じ蝸牛かは分からない。
少女たちは裏側からそっとのぞき、雨が来るまで一緒に待った。