銀皿に載らない命令
宮廷の毒見騎士ダリオンは、料理より先に銀皿を見て青ざめる。
皿の縁には蔓草の呪印が刻まれ、給仕が三度叩けば「食べよ」という命令が胸へ届く。毒が入っていても、腐っていても、舌を噛み切ろうとしても、彼は一口目を拒めない。
これまで割れた杯は二十七、倒れた毒見役は六人。それでも銀皿だけは新品同様に磨かれ、次の食事を待っていた。
その日の晩餐には、明らかに紫色の湯気を上げるスープが置かれていた。
「新しい解毒薬の実験だ」
大臣は笑い、給仕長パメラへ銀の匙を渡した。
「お前が皿を叩け。成功すれば騎士の所有権を褒美にやろう」
ダリオンの指が震える。
これまで命令した者ではなく、今から命令する者を憎めと言わんばかりに、彼の目がパメラへ向けられた。
パメラは匙を受け取り、皿の縁を一度叩いた。
騎士の背が強張る。
二度目。
彼の手が勝手にスプーンへ伸びる。
三度目――の代わりに、パメラは銀皿を床へ叩きつけた。
皿は曲がっただけだった。
大臣が笑う。
「王家の銀だぞ。女の腕で割れるものか」
「ええ。だから厨房で先に細工しました」
パメラは靴の踵で、皿の裏にあらかじめ入れておいた細い切れ目を踏み抜いた。
銀皿は呪印に沿って二つに裂ける。
契約の蔓がダリオンの胸から剥がれ、黒い糸となってスープへ落ちた。紫の液体が泡を立てて消える。
「何をした!」大臣が立ち上がる。
「食器を一枚、廃棄しました」
「その騎士は王家の――」
「銀皿に人間は載りません」
パメラは厨房の裏口を開けた。
ダリオンは誰にも止められず、ゆっくり外へ出た。腰の剣も、毒見役の徽章も置いたまま。
翌朝。
仕込み場でパメラが山ほどの玉葱を前に泣いていると、扉が開いた。
私服のダリオンが立っていた。片手には自分で買った新しい剣、もう片方には包丁。
「騎士を辞めたのでは?」
「毒見は辞めた。だが、あなたの厨房は大臣に狙われる」
「護衛を頼むお金はないわ」
「賄い付きなら相談できる」
彼は剣を壁へ立てかけ、包丁を自分からまな板へ置いた。
「最初の仕事を選ばせてくれ。玉葱は、俺が斬る」