鍵のない倉庫の入室記録

冷凍倉庫の扉が閉まる直前、矢内倉庫長は宮前祥子の背を押した。

「棚番号を覚えるまで、そこで反省していろ」

「防寒着を取らせてください」

「新人が口答えするな」

厚い扉が閉まり、外から施錠音がした。冷気が薄い制服を抜け、息がすぐ白く固まる。祥子は棚札の時刻表示を見て、意識を保つため一分ごとに番号を声に出した。手の震えで端末を落とさないよう、配送紐を手首へ巻いて支えた。非常ベルを押したが、警報は鳴らない。矢内が朝礼で〈誤作動が多い〉と言って、主電源を切っていた。

庫内用端末だけが淡く光っている。祥子は配送番号を入力し、外部の運行管理へ異常を送った。

二十分後、保安員が非常扉を開けた。祥子が毛布を肩に戻ると、矢内は事務所で腕を組んでいた。

「勝手に倉庫へ入り、さぼっていたんです。私は鍵を持っていません」

彼は社員たちの前で、祥子の名札を机へ投げた。

「規則違反だ。今日で辞めてもらう」

保安員が尋ねる。

「冷凍三号庫は物理鍵が廃止されています。誰が施錠しましたか」

「だから、勝手に閉まったんだろう」

「自動施錠はしません。管理者の声紋命令が必要です」

矢内の顔から色が消えた。

保安員が庫内端末を接続すると、入退室記録が壁に投影された。

午前九時十二分、宮前祥子、入室。

同時刻、管理者権限・矢内高志、外部施錠。

その下に、音声命令まで保存されていた。

『棚番号を覚えるまで、そこで反省していろ』

さらに午前九時十三分、非常警報電源を切断。操作した端末は矢内の机上機だった。

「教育だ! 昔はこれくらい普通で――」

「今、閉じ込めたことを認めましたね」

保安員の胸章が、録音中を示す緑に光っている。

矢内は逃げるように事務所の出口へ向かった。だが扉の前には、運行管理から通報を受けた警察官が二人立っていた。

祥子は自分の名札を拾い、制服へ戻す。警察官は入室記録を受け取り、矢内の前で逮捕状を開いた。

「矢内高志。監禁および安全設備無効化の容疑で、逮捕する」