鎧蟹の甲羅を城壁にする
王都の西壁が破られたとき、騎士団長は工兵ケイルに言った。ケイルは半年前から壁内部の空洞を報告し、補修図まで提出していたが、宴会場の改装費を優先した上層部に握り潰されていた。
「槌しか持てぬ者は下がれ。ここからは英雄の仕事だ」
その英雄たちは、敵国の魔導砲が二射目を充填するのを見るなり退いた。次に撃たれれば、避難中の下町が一直線に焼かれる。
ケイルは足元の城喰い鎧蟹を見下ろした。壁の石を食らう巨大ボスを、たった今、崩落用の楔で仕留めたところだ。
彼の《建材ドロップ指定》は、倒した建造系ボスから必要な限定素材を確定させる。求めたのは《反攻甲殻》。見た目は手のひらほどの白い殻だった。
「そんなものを飾る暇があるか!」
騎士団長の怒声を無視し、ケイルは壁の亀裂へ殻をはめ込む。槌で一度だけ叩いた。
白い筋が石壁を走った。崩れた石が逆再生のように持ち上がり、隙間を埋め、その外側へ半透明の甲羅が広がっていく。西区全体を覆う巨大な防壁が、数呼吸で完成した。
敵の魔導砲が火を噴く。
光弾は甲羅へ命中し、音もなく平らに潰れた。次の瞬間、同じ威力のまま撃ってきた軌道を引き返す。
狙ったのは兵士ではない。甲殻は「攻撃を生んだ道具」だけを認識し、敵陣の魔導砲十二門を正確に粉砕した。爆風は外側へ逃げ、周囲の兵には土埃しか届かない。
敵軍から白旗が上がった。反射された砲撃は砲身と照準器だけを壊し、徴兵された敵兵の列には傷一つない。攻める理由も道具も失った兵たちは、その場へ武器を置いた。
下町では、避難途中の人々が無傷の屋根を見上げている。騎士団長は口を開けたまま、剣を下ろした。
「なぜ、お前がこんな防壁を……」
ケイルは槌を肩へ担ぐ。
「英雄が下がったので、工兵の仕事をしただけです」
王が西壁へ到着し、騎士団長を通り過ぎてケイルの前で足を止めた。
「この壁の設計者に、復興の全権を渡す」
白い甲羅は役目を終えて石へ溶ける。その表面に、最後の一行だけが金色に残った。
【攻城ボス限定SSR《反攻甲殻》――無傷防衛、世界初成功】