長子権限を解除します
両親が木星航路へ出たあと、居住区の家庭AIは姉へ〈長子権限〉を与えた。
弟の外出許可。
酸素使用量。
食費。
学習時間。
「門限、二十一時」
「母さんより厳しい」
「事故が起きたら、私の責任になる」
「姉ちゃんが親になったわけじゃない」
弟は権限画面を改造し、夜中に外へ出た。姉は警報で目を覚まし、弟の端末を一週間停止した。
二人は口をきかなくなった。
その最中、微小隕石が居住区を直撃した。
自動隔壁が閉まり、弟は作業通路、姉は居室側へ分断された。AIは未成年の弟へ配管制御権を与えない。
〈長子管理者の承認が必要です〉
「承認する!」
姉が叫んでも通信が乱れた。
弟は壁の点検蓋を開けた。
「手動でやる」
「勝手なことしないで!」
「今それ言う?」
姉は緊急手順を読み、弟は配線をたどった。姉は規則を覚えるのが得意で、弟は壊れたものの仕組みを見るのが得意だった。
「青い線を切る」
「手順では赤」
「赤は警報。青が隔壁」
「根拠は?」
「見れば分かる」
「私には見えない!」
弟は映像を送り、姉は図面と照合した。
「……青で合ってる。切って」
隔壁が開き、二人は同じ区画へ戻った。
事故後、AIは姉へ報告した。
〈管理者の適切な指示により、家族員を救助しました〉
姉は画面を閉じた。
「適切な指示じゃない。二人で決めた」
弟も、改造した権限を元へ戻した。
「勝手に外へ出たのは謝る」
「私は、責任が怖くて全部決めた」
二人は家庭設定を書き換えた。
外出は互いへ通知するが、許可制にしない。
酸素や食費は共同画面で相談する。
緊急時の制御権は、年齢ではなく居場所と技能で切り替える。
困ったときは、姉だけが責任者にならない。
AIが警告した。
〈保護者不在家庭として、長子権限の解除は推奨されません〉
二人は同時に承認を押した。
〈長子権限を解除します〉
両親へ送った報告には、事故より先にその変更を書いた。
〈姉は親ではなく、弟は管理対象ではありません。私たちは違う得意分野を持つ、同じ家の二人です〉
返信が届くまで十六分かかった。
〈了解。家を頼みます〉
姉は弟を見た。
「頼まれたね」
「二人に、でしょ」
今度は姉も、すぐにうなずいた。