陛下の町内会デビュー

 豊穣祭の朝、国王アウレシオは腹痛を理由に寝台から出なかった。

「民の前で三時間も笑うなど、拷問だ。影武者を出せ」

 そこで王と同じ顔に化粧された書記官ベルン=カーヴァが、金の馬車へ押し込まれた。

「手を振り、うなずき、何を言われても『善処する』と答えよ」と宰相。

「決裁権は?」

「ない」

「質問されたら?」

「王らしく堂々と曖昧に」

 広場では、町内会長が待っていた。

「陛下、何でも民の声を聞くと伺いました」

「何でも?」

「さすが陛下。では、東通りの穴を」

「埋めよう」

「井戸のポンプも」

「替えよう」

「祭りの太鼓が古いのです」

「新しくしよう」

 宰相が馬車の陰から激しく首を振る。ベルンは「善処する」を思い出した。

「すべて善処する」

「すべて実施!」と町内会長が書記へ伝えた。

「言葉が増えている」

「王のお心を補いました」

 次々と住民が来た。

「税が重いです」

「軽くしよう」

「隣家の山羊が洗濯物を食べます」

「山羊に鈴をつけよう」

「夫が酒場から帰りません」

「酒場を家の隣へ移そう」

「それは困ります!」

 会話が進むほど、王国の制度は細かく改造されていった。ベルンはもともと地方予算の書記官なので、数字には詳しい。住民の愚痴を聞くうち、道路修繕費が宴会費の十分の一しかないことまで口にした。

「では宴会を一回減らせばよい」

「陛下が宴会を!」

「一回だけだ」

「年十二回減らすと記録します」

「また増えた!」

 祭りの終わり、住民は大歓声で影武者を見送った。城へ戻ると、本物の王が寝台で葡萄を食べていた。

「余の代わりは務まったか」

「道路補修、井戸交換、減税、山羊の登録制度、宴会十二回削減を約束しました」

「国を作り替えたのか!」

「陛下らしく、堂々と答えました」

 翌朝、広場には『国王直筆の改革一覧』が掲げられ、民衆はすでに工事を始めていた。取り消せば暴動、実施すれば財政改善。宰相は静かに予算表を差し出した。

 アウレシオは頭を抱えた。

「次の祭りは余が出る」

「では私が寝台で腹痛を?」

 影武者は、その日から本物の補佐官になった。