陽だまりを畳む

猫は死ぬ前に姿を隠す、と人間は言う。

けれど十八歳のわたし、サフランは隠れないことにした。弓削井環は、見えないものをいつまでも探す癖があるからだ。

小学生のころ、なくした消しゴムを泣きながら探した。高校生のころは、返事の来ない手紙を毎晩読み返した。大人になって恋を失った夜には、もう戻らない足音を玄関で待った。

そのたび、わたしは見つかる場所にいた。

教科書の上。郵便受けの前。冷えた布団の真ん中。

環が初めて家を出た日には、空の本棚へ座った。三年後、戻ってきた日には、荷ほどきより先に膝へ乗った。人間の出発と帰宅は大げさだが、膝の高さはほとんど変わらない。

「邪魔だよ」と言いながら、環はわたしを抱いた。人間は本当に邪魔なものを、あんなふうには抱かない。

最後の朝、脚に力が入らなかった。環は仕事を休み、窓辺へ毛布を敷いた。春の光が四角く落ちている。

わたしは前脚を交互に押した。

右、左。右、左。

子猫のころ、母猫の腹へした動きだ。環はこれを「パンをこねてる」と笑う。違う。今日は陽だまりを畳んでいる。

台所の朝日を一枚。

夏の廊下の熱を一枚。

冬の膝掛けに残ったぬくもりを一枚。

環がひとりになった夜、広げて使えるように。

「サフラン、苦しい?」

苦しくない、と言う代わりに喉を鳴らした。もう小さな音しか出ない。それでも環は額を寄せた。

夕方、光の四角が細くなった。

環は何度も名を呼んだ。わたしは最後まで聞いていた。呼ばれたものは、帰る場所を知っている。

だから、目を閉じた。

それからしばらく、環は家中を探した。抜けたひげ、爪痕、棚の奥の毛玉。見つけるたび箱へ入れた。けれど陽だまりだけは箱に入らず、毎日少しずつ場所を変えた。

四十九日目、環はようやく、わたしの水皿を片づけた。その夕方、玄関の外で細い声がした。

雨に濡れた子猫が、植木鉢の陰で震えていた。環は迷った。抱けば、忘れることになる気がしたのだろう。

子猫は勝手に家へ入り、窓辺まで歩いた。そして、わたしが畳んでおいた光の上で丸くなった。

環の手が、その小さな背へ触れた。

「ここ、あったかいでしょう」

そうだとも。

わたしはそれを、あなたのためだけに残したのではない。

環は泣きながら笑った。子猫の喉が鳴り、毛布の上で前脚が動き始めた。

右、左。右、左。

陽だまりは、使ってもなくならない。

誰かへ畳み直せば、何度でも春になる。